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「包丁一本しか持ってないんですか?」
「万能包丁っていうじゃん。一本でいいじゃん~~」
「先輩、それでも女子です?」
「関係なくない!!?」
一言多い人だったと思う。否、料理好きの人だったと思う。
打ち上げの帰り道、酔っ払いの様相そのままに話したり時に叫んだりしてた。明日のご飯作るのめんどい~って勢いのままに言ったら、君は、酔ってるのか酔ってないのか良く分からないテンションで、ご飯作りに行きましょうか?なんて言った。いいよ~うち料理ちゃんとできる感じじゃないしって返したら、そのまんま包丁の話になって。
そうして冒頭のセリフだ。

「これは、正確には三徳包丁と言って、肉も魚も野菜も切れるようにできてる包丁です」
「それぞれ食材で包丁を分けた方がいいですよ」
「包丁研ぎも無いんですか?どうやって料理するつもだったんです?」

並んで料理するようになって、色々教えてもらった。
人参の擦りおろしが面倒くさいと嘆く私に
「その一手間で美味しくなるんだよ。いつも言ってるじゃん」
やっぱり一言多い人だと強く確信する。

野菜専用の三徳包丁で玉ねぎをみじん切り、そのまま弱火で炒める。手早く人参をすりおろす。ずいぶん慣れたものだ。
サラダのためにパティナイフを取り出そうとしたら、視界の端に入った万能包丁。
途中からお肉専用となり万能を名乗れなくなった包丁。散々使い倒され、包丁研ぎの効果も大分薄くなった。今では、ナタのようにしてたまに使われる。
今月末処分してもいいかもしれない。

ねぇ、君。
君は今、何をしているんだろう。
この包丁のこと覚えてるかな?

2/27/2024, 4:06:29 AM