ミツ

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「桜(さくら)は偉いね」

いつもいつも、僕を褒めるのはお母さん。

兄弟を見下すのはお母さん。

「詩織(しおり)は偉いな」

いつもいつも、兄弟を褒めるのはお父さん。

僕を見下すのはお父さん。

お母さんは何かと僕と兄弟を比べる。

本人のいない間に。

「桜は何でも出来るね、お勉強も運動もおまけにお母さん似で顔も整ってる」

たしかに僕は兄弟よりも上手に物事を進めることが出来た。

容姿もよく褒められる。

「それに比べて詩織は何もできない。きっとお父さんに似たのね。あの人察することだけは人一倍できてたから、詩織だってそうじゃない」

よく、そんな話をして笑った。

二人で。

もしかしたら、兄弟に聞かれていたかもしれない。

お父さんに聞かれていたかもしれない。

でも、お父さんも何かと僕と兄弟を比べる。

僕らがいない間に。

「詩織はいい子だね。純粋で、天使の子かと思ったよ」

「それに比べて桜は汚い。心が汚れているところもお母さんにそっくりだよ」

よく、そんな話が聞こえてきた。

僕に聞かれているのも知らないで。

お母さんも聞いていたかもしれないのに。

僕はお母さんが嫌いだ。

兄弟と話させてくれないから。

お父さんも嫌いだ。

兄弟をしばっているから。

しばらくして、二人は離婚した。

当然ながら、僕はお母さん。

兄弟はお父さんについていった。

泣いた。

どうにもならないことは知っていた。

だけど泣いた。

少しでもこの悲しみを紛らわせたかった。

兄弟は好きだ。

でも、羨ましかった。

お父さんが兄弟の事を好きだったから。

お父さんに愛されていない。

そう思うだけで泣きそうだった。

劣等感は膨らんでいく。

やがて、風船のようにはじけた。

もはや溜められなくなった劣等感はなくなった。

僕は兄弟に好かれていた。

羨ましがられもした。

お母さんが僕のことを好きだったから。

お母さんは兄弟を愛していない。

そう思うだけで笑みがこぼれそうだった。

これは優越感。


お母さんは教えてくれなかった。

何故、兄弟を嫌うのか。

聞こうとした。

何度も何度も。

けど聞けなかった。

僕は一生勇気を出せない。

僕は一生答えをしれない。

                          ー優越感、劣等感ー

7/13/2024, 3:00:52 PM