海月 時

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「生きて。」
そう言って微笑む彼女。本当にずるいよ。

「ドラえもんの道具で、どれが一番欲しい?」
唐突な質問。彼女らしいと言えば彼女らしいが。
「私はね〜。タイムマシン!未来の自分がどうなってるのか知りたい!」
定番だな。僕がそう言うと彼女は、拗ねた顔をした。しかし、すぐに笑顔に戻る。こんな他愛のない会話が、ずっと続くと思っていた。

「大丈夫だよ。泣かないで?」
そう言って微笑む彼女。彼女の体は赤く染まっていた。先程、僕を庇って、信号無視の車に撥ねられた時にできたものだった。僕のせいで彼女が。それなのに只、泣く事しかできない自分を恨んだ。
「私の分まで生きてね。これは命令だよ。」
そう言って彼女は、僕の手の中で死んでいった。彼女が死んで数分後に救急車は到着した。

あの日から僕の世界は真っ黒だ。何度も死のうと思った。しかしその度に、彼女の言葉を思い出す。生きてだなんてずるい言葉。言われた側の気持ちを知らないで。本当に苦しいんだよ。でも、死ねない。このループが僕の人生を回る。きっとこの苦しみは、僕の贖罪だから。

もしもタイムマシンがあったら、僕は過去と未来の両方に行きたい。過去に行って、自分が生まれるのを阻止したい。未来に行って、彼女が僕が居なくても幸せかを知りたい。でも、叶わない。ならば今の苦しみを耐えて、来世で彼女と恋をする資格が欲しい。

7/22/2024, 2:39:36 PM