草波香

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皆は息をどのぐらい止めていた事があるだろうか。1分?2分?まぁ殆どが苦しいと思える間だと思う。私は息をする方がよっぽど苦しいと思えるぐらいには止めていた事がある。今日はその時の話をしようと思う。
 あれは小学校の中学年の夏の始まりの頃だった。私は水遊びが大好きで、授業でプールや川遊びをやる事を楽しみにしていた。だからだろうか、ある日川遊びをしている夢を見た。流れも穏やかで踝丈の水かさ、広く開けた場所でサワガニを探しているとてもリアルな夢だった。ある岩場でカニを探していたが、なかなか見つからず、違う方も探してみようと、今まで探していた場所を離れようとした時の事だった。片足が何故か動かないのだ。岩に挟まった感触はない。無かったが他に理由は考えられず確認しようとした瞬間、地面がなくなった。下は光も届かぬと言わんばかりに暗く底が見えない。周りは魚も岩も石すらない。ただ果てが無い様にただ深い青が、ずーと続いているのだ。そう。そして私の片足を捉えていたのは底のない底へと続く長い誰かの髪の毛だった。どんどん下へ下へとその髪は私を引っ張っていく。必死に足掻いたけれど意味をなさずどんどん水面から遠ざかって行く。何故かこのとき夢を夢だと思わず現実だと思っていた。だから水の中。息を当然止めていた。もう苦しい。もう駄目だと思ったときには僅かに残っていた水面からの光がもう殆ど見えない状態だった。そして、周りが真っ暗になったとき苦しいなんて何処かへ行っていたのだ。息は未だに止めていてしていない。なのに苦しくないのだ。ただ ふわふわ とした心地で上も下も左右も無い闇が広がっていた。あぁ何処だろうココ。もうここまで来たら帰れないよね。何故かそう思った。ちょっと悲しくなって来た時だった。その闇を照らすように炎が一つ ぶぁ と灯った。暗がりの中で小さく灯った炎は私しか照らせていない。それでも私はやっとそこで気づいたのだ。ここが夢であると言うことを。水の中に炎が灯ると言う矛盾で私は夢だと思えたのだ。夢なんだ!夢なんだから息をしよう!と空気を思いっきり吸い込んだ。咽た。どっかに行ったと思った苦しさが戻ってきた。苦しくて苦しくて涙が出た。でも息ができると一生懸命に呼吸をした。強歩大会の練習の後より息が上がっていた。真っ暗だった視界がだんだん白一色に染まり始めた。そして色が付き始めて黄色い小さい電球の灯るいつもの寝室の天井が見えたのだ。あぁ戻って来れた。戻って来れた。死なずに済んだ。と嬉しく思った。あの時炎が灯ってくれなければ、夢で死ぬなんてバカみたいなことになっていたかもしれない。本当にあの時の炎には感謝をしている。


題「暗がりの中で」ちょっぴりホラー

10/28/2022, 11:30:55 AM