悪役令嬢

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『二人だけの秘密』

「おかしいですわ、
確かここに置いてたはずなのに」

倉庫でお気に入りのクッションを探していると、
見知らぬ大きな箱を見つけた悪役令嬢。
あら、これは何かしら。
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「今月の分です」
「ありがとうオズワルド」
魔術師から発作を抑える薬を受け取ると
何処からか悲鳴が聞こえてきた。

二人が急いで駆け付けると、
倉庫の中で巨大な軟体生物が蠢き、
悪役令嬢の体に巻きついていた。

「こいつは一体……」
「ミミックです。何故このような魔物がここに」

セバスチャンが主の体に絡みつく触手を
引きちぎって、 魔術師が炎の魔法で
触手を生み出している宝箱を燃やすと、
箱は悲鳴を上げながら灰となって消えた。

「主、しっかりしてください!」
セバスチャンは腕の中でぐったりしている
主に呼びかけるが、全く反応がない。
「今のお嬢様は魔力が枯渇している状態です。
このままだと衰弱して命を落とす可能性も」
「どうすれば助かる?」
「魔力を供給すれば良いのです。輸血するようにね」
一呼吸置いてから、魔術師がその方法を教えた。
セバスチャンは目を見開き首を横に振る。

「それは駄目だ」
「ですが他に方法はありません」
「しかし……」
「セバスチャン、これは彼女の命に関わることです」
「……」

セバスチャンは、魔術師の真摯な瞳を見つめて、
それから腕の中の主に視線を移す。
青白い顔と徐々に下がっていく体温を
感じながら彼はゴクリと喉を鳴らした。

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書斎で大きく伸びをする悪役令嬢。
私、眠っていたのかしら。

「お嬢様」
「あら、魔術師ごきげんよう。
セバスチャンに薬を届けに来てくださったの?」
「ええ……それよりも体調は如何ですか?」
「私はすこぶる元気ですわ。今なら何でもできそう」
髪をかきあげながら機嫌よく話す
悪役令嬢に魔術師は目を細める。
「……それはよかった」

「さて、今日中にこの書類の山を片付けて
しまいましょうか。セバスチャン」
「……あ、はい」
話題を振られたセバスチャンが咄嗟に答える。
「セバスチャン、どうかしましたの」
「なんでもないです……すみません」
そう言って部屋を出ていくセバスチャン。
「では私もこれで失礼しますね」
その後に続く魔術師。

二人ともいつもと様子が変ですわ。
何か後ろめたい事でもあるのでしょうか。
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「オズワルド」
目を合わせると魔術師はゆっくりと頷く。
「大丈夫、二人だけの秘密です」

5/3/2024, 4:25:20 PM