かのこ

Open App

『微熱』2023.11.26


 微熱が一番つらいと思う。まだ熱が上がりきってくれたほうがいい。なまじ動けるので、いまいち休息をとるということに罪悪感を抱いてしまう。
 三十七度四度。中途半端である。四捨五入するとまだ三十七度なので、熱はないのと同じだ。
 咳も出ていないし、喉も痛くない。倦怠感もなければ鼻水だって垂れていない。単に熱があるだけ。だから大丈夫だ。
 そんなことを言い訳のように並べると、我らがリーダーは眉間の皺をさらに深くした。
「今日の稽古は休んだほうがいいんじゃないのか」
「動けますよ」
「それでも熱があるだろ。事故になったらどうするんだ」
 今日は殺陣稽古だ。しかも太鼓舞台ということもあり、足場もよろしくない。なので休んだほうがいいと、リーダーは仰せだ。他のみんなも同じ意見なようで、帰るなり見学なりすればいいと口をそろえている。
 四捨五入すると、という言い訳を繰り返しても、ダメだと突っぱねられた。
「無理をしてんいいことないけ、ゆっくり体を休めたほうがいいちゃ」
 こういうとき、だいたい味方になってくれる金髪の彼にも言われてしまったので、殺陣はせずにセリフだけ参加することにした。
 おとなしく解熱剤を飲んで、演出をするリーダーの隣に座る。目の前で殺陣師に動きをつけてもらうみんなを見ながら、ため息をついた。
 中途半端だ。微熱でなければ、よろこんで家に帰ったし病院にも行った。
 三十七度四分。ほとんど誤差の範囲で、少ししたら下がりそうなぐらいの微熱。
 動きたくても動けないそのもどかしさに、熱が上がるような気がした。

11/26/2023, 1:27:10 PM