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8.『羅針盤』『明日に向かって歩く。でも』『あなたへの贈り物』


「念願の羅針盤を手に入れたぞ!」
 僕はようやく手に入れた羅針盤を愛しくなでる。
 今まで不幸続きの人生だったが、これで僕にも運が向いて来るだろう。

 なぜならこれは、魔法の羅針盤。
 持ち主にとって有益なものまで案内してくれる、凄いシロモノなのだ

 『あなたへの贈り物を探しに行きましょう』
 そんなキャッチコピーと共に発売されたこの羅針盤は、とんでもなく売れまくった。
 友達が話しているのを聞いて、僕も噂の羅針盤を手に入れようと店に行くが時すでに遅し。
 どの店でも売り切れで、ようやく見つけても偽物だったりと不幸続き。
 最終的には一年待ちの予約となった。

 そして待ちに待った一年後、ついに手に入れることが出来た。
 相変わらず不幸続きだったが、ようやく幸運な未来が開けてくる。
 僕は幸せな未来を掴むため、説明書を読む。

 『羅針盤には二つの針があります。
 赤い方角は幸運があり、もう一方の黒い方角には不幸があります』

 なるほどね。
 原理はよく分からないが、赤い方に向かって歩いて黒い方を避ければ、幸運が訪れるらしい
 あまりの簡単さに不安になるが、今日は日曜日。
 効果があるのか試してみよう。

 僕はアパートの部屋から出て、近所の公園のベンチに座って羅針盤を見る
 赤い針は、近所のスーパーの方を差していた。

「そういえばチラシでタイムセールやるとか書いてあったな」
 僕はウキウキな気分でスーパーに体を向ける。
 今までタイミングが悪く、一度もも遭遇したことがないタイムセール。
 もしかしたら初めて遭遇できるかもしれない。
 
「行こう」
 ついてない人生にはさようなら。
 僕は幸せな明日に向かって歩く。



 でも、何だろう。
 何かを忘れているような感覚が、胸の中にある
 僕はその不安を見逃すことが出来ず、少し考える

「家のカギを閉めてない気がする」
 もちろん気のせいで、ちゃんと鍵を閉めたかもしれない。
 これまでそんな事は一度も無かったし、きっと今回も閉めただろう
 そう思うのだけど、どうしても不安が拭い去れない。
 僕は悩んだ末、決断をする。

「帰ろう」
 この先に幸運があるとしても、心残りがあったら純粋に楽しめないだろう。
 閉まってたらまた出かければいいだけだ。
 幸い部屋はすぐそこである。
 僕はベンチから立ち上がり、家に向かおうとして、ちらと羅針盤が視界に入る

「あれ、黒い方が家に向いてる……」
 しかし羅針盤の黒い針は家を向いて、不幸があることを指し示していた。
 これはおかしい。

 家の施錠の状態を確認すれば少なくともホッとするので、少なくとも僕にとってはプラスの出来事だ。
 なのに、『このまま向かうと不幸になる』事を羅針盤は示している。
 どういう事だろう?

 タイムセールに遅れる?
 確かに残念だが、それって不幸か?
 考えても分からない。
 どういう事だろう……?

 幸運のスーパーに行くか、不幸の自宅へ戻るか……
 選択を迫られる。
 僕はまたしても悩み、さっきより長めに悩んだ末、一つの決断を下す。

「スーパーに行こう」
 何があるかは分からないが、とりあえずスーパーに行けば不幸避けられる。
 僕は納得しないながらも、スーパーに向かうのであった。

 ◇

 30分後。
「いやー、運がよかったなあ」
 僕はたくさんの戦利品を手に、いい気分で家路についていた
 あのままスーパーに入るとタイムセールが行われていた
 売られている商品すべてがお買い得で安いのだ。
 初めてのタイムセールに、僕は興奮してたくさん物を買ってしまった。
 買いすぎて買い物袋が手に食い込んでいたいけど、、そんな事が気にならないくらい僕は幸せな気分だった。

 いい買い物に、羅針盤の性能も確認できた。
 有意義な時間であった
 
 そして、一応確認したのだが黒い針はもうアパートを向いていない。
 それどころか赤い針が差している。
 不幸は過ぎ去り、幸運が待っている
 今夜は戦利品でパーティだ!

 鼻歌を歌いながら近くまで行くと、アパートの前に人だかりができていた。
 何かあったのだろうか?
 出かける前の黒い針の事を思い出して、嫌な予感がよぎる

「あっ、無事だったんですね!?」
 恐怖に駆られていると、誰かに声をかけられた。
 振り向くと、そこにいたのは隣の部屋に住んでいる隣田くんだ。
 隣田くんは非常に慌てた様子で、事態の説明をしてくれた

「アパートに隕石が落ちてきて、アパートが壊れちゃったんだ。
 みんな怪我がない事が分かったけど、君だけ連絡がつかなくて心配していたんだ。
 でも出掛けてて良かったよ。
 特に君の部屋がひどく壊れて、家の中にいたら死んでいたかもしれないからね。
 不幸中の幸いだ」

1/24/2025, 2:08:08 PM