花とコトリ

Open App

凍える指先と、クロの温もり

この冬一番の冷え込みが、窓ガラスを細かく叩く夜。

暖房をつけた部屋の中でも、
キーボードを打つ指先だけは、
もう随分前から氷みたいに冷たくなっている。
まるで、私だけ別の季節にいるみたいだ。

「大丈夫かい?」

そう言ってくれる声があればいいのに、
聞こえるのは時折聞こえる、愛犬クロの寝息だけ。
毛布にくるまって丸くなった黒い塊は、
たったそれだけで、
部屋の空気をふわりと暖かくしてくれる。

さっき淹れたはずのコーヒーも、
カップの中でもうすっかり冷たくなって、
湯気一つ立てていない。

それでも、一口飲む。
苦い、けれど、体には沁みる。

凍えた指先を、
クロのやわらかい頭にそっと乗せてみる。
温かい。
この温かさがあれば、もう少し、
この静かで冷たい夜と付き合っていける気がする。

12/9/2025, 2:39:17 PM