Ayumu

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 この日が近づくといつも行くスーパー全体の雰囲気がどこかほんわかして、可愛らしい配色が目立つ。
 私が好きな淡いピンク色がところどころで目に入る。

「今日は特別よ」

 そう言う母親と、心から嬉しそうな笑顔を浮かべてお菓子の袋を買い物かごに入れる子どものやり取りも微笑ましい。つられて、二個入りの小さな菱餅をかごに入れていた。

「せっかくだからいろんな具入れた豪華ちらし鮨作るか」
「ちょっ、私が食べられるのにしてよ?」
「このわたしの料理の腕を信じなさい」
「嫌な予感すんのはなんでだろ……」

 客観的にはこれも微笑ましい会話をするカップルの横を通り過ぎ、すでに完成しているものをかごに入れた。
 雛人形を飾るのはもちろん、ちらし鮨を一緒に作ったことも、ひなまつりならではのお菓子を食べたこともない。
 だから毎年、こうしていわゆる「おすそわけ」をさせてもらっている。

 いろんな行事があるなかで、このひなまつりが一番好きだった。冬が去りかけ春の足音が聞こえ始めるからか、いっそう華やいで見える。
 たぶん、自覚がなかっただけで、昔から「憧れ」を抱いていたのだと思う。女の子にとって特別とされている、この一日を。

 逆に、どうして自分だけの特別にならないのかと羨ましさを募らせることもあった。そうしたらまったくつまらない。意味もなく終わらせてしまうだけの状態が続いた。
 どうせなら自分なりに楽しもうと方向転換したのはそのときだ。

(そうだ、せっかくだから来年は雛人形でも飾ってみようかな?)

 一年後に楽しみを予約して、先ほどよりも軽くなった足取りで買い物を再開した。


お題:ひなまつり

3/4/2023, 9:56:34 AM