今一番欲しいもの
あるゲームの夢小説です。(ネタバレを含む可能性があります。)
僕は今日も耳障りな音とともにベッドの上で起きる。
いつの日も。
憂鬱なそんなことに慣れてしまって身支度をする。
自室から出て、もはや自動ロボットのようにいつもの道へ歩みを進める。
そしていつもの流れを繰り返す。
なぜか、今回はいつも向かう彼の元には行きたくなかった。
そのため、今日は明日のためにゆっくり休もうと思い早めの就寝に入ることにした。
意味があるかも分からないマッサージや保湿なんかをしながら眠気を誘い出す。
いい感じに眠気に誘われ夢の中に入ろうとしたとき、自室のドアが開き現実に呼び戻される。
「あぁ、寝るところだったのか。」
疑問が頭に山程浮かんだが、つい数秒前まで夢の中にいた自分には口に出すことができず、呆然とぽかんとするしかなかった。
そんな自分を裏腹に彼は棚や片付けられず床に置かれた物を見て口を開く。
「君は、なんのためにそれらを使ってるンだい?ぱっと見るだけでも適切に使えてるようには思えないけど。そんな風にそれらを使っても時間の無駄だよ。君は無駄なことに時間を使う凡愚なんだったら話は別だけど。それに、君には…」
寝起きの脳では彼の言葉を聞きたくても右から左へ流れていってしまう。
そんな自分を覚醒させるために口を動かす。
「無駄かもしれないですけど、なにもしないよりはいいのかなと思いまして…」
はぁ…。と彼は深いため息をつく。
また悪態をつかれてしまうと身構える。
「僕が一通り使い方を教えてあげるから、ほら貸しなよ。」
「え?」
そんな思っても見なかった返答をきっかけに彼は色々手取り足取り丁寧に教えてくれた。
「あ、ありがとうございます…。これで僕も貴方みたいに綺麗になれますかね」
「どうかな。元々綺麗なんだから必要ないと思うけど。したいならすればいいンじゃない。それよりも、君、話してみなよ。人間の脳ごときで、沢山の不確定な情報を抱えたまま通常通り機能できると思ってるの?そんなの僕ですら無理なんだ、君になんて更に無理だろう。ほら。」
さらっと褒められ、更に悩みを打ち明けていいとまで言われてしまった。
今日は本当に何が起こっているのか色んなことが起きすぎている。
そんなことがぐるぐる脳を巡りながらも、彼に言われるまま様々な自分のことを打ち明けた。
彼は時には嬉しそうに、時には真面目に考察や助言なんかをくれた。
彼と話して小一時間が経ち、彼が好きだということも告げてしまった。
「ふぅん。そう。分かってたよ。」
彼は一言そう告げると、僕の体を包むように抱きしめた。
一度も見たことがない表情、それに雰囲気も柔らかく自然と胸が高鳴る。
「僕で良かったね。いいよ、一緒に生きよう。」
そんなことを耳元で呟かれる。
そこで分かってしまった。
「なぜか気づけば君を目で追い、君の声だけはなぜか心地いい音がするンだ。この僕が映像や音にそんな感情を抱くなんて変わったもんだよ。いや、君に変えられた、が正しいかな?」
彼は泣いていた。
僕もつられて涙が溢れる。
どうすることもできない感情をお互い抱えながら赤子のように、しかし、静かに喚く。
「僕も君のことが、好きだよ。」
⸺⸺ジジッ
7/21/2023, 6:55:51 PM