鐘の音が鳴り響く。頭の中で。
遠くで揺れていただけのあの人の声が、いつからから鳴り止まなくなっていた。
僕はただ静寂を取り戻したかった。
夕焼けに染まった部屋は、静寂に包まれていた。もしかしたら、世界は終わったのかもしれないと勘違いする程に。
カーテンは閉めてあるけれど、夕日の赤い赤い光が、隙間から長く射し込んでいる。床に眠っている鉄でできた三日月の欠片が、光に溶け込んでいる。
ベッドには美しい人形が横たわっている。夕焼けで、何よりも綺麗に染まっていく。僕も少しだけ同じように染まっている。
鳴らなくなった鐘を、指先で優しく撫でた。
あぁ、世界は今、驚く程に穏やかだ。
幸せな気持ちで、このまま僕も一緒に夕焼けに溶けてしまおうかと、静かに瞼を閉じた。
『鐘の音』
8/5/2023, 2:12:10 PM