薄暗い病院の一角。
ベージュ色のソファに座り込んで、目の前の扉が開くのを待っていた。
残業終わりの深夜、知らせを受けてタクシーを拾い病院に駆けつけた時には、既に君は手術室の中。
何枚かの書類にサインをした後、ここで待つようにと言われて、看護師に連れてこられたのは、手術中の赤いランプの灯る扉の前で。
それから随分待ったように思ったが、腕時計を見やればまだ一時間程しか経っていなかった。
すぐ側の自販機で買った缶コーヒーで冷えて強張った指先を暖める。
絡めた指をそのままに、そっと祈った。
今までさんざん否定してきた神へと。
煌々とした赤い電灯をゆっくりと仰ぐ。
扉の開く気配はない。
痛いほどの静寂に心がざわついていき、嫌な妄想ばかりが頭を過ぎっていった。
神様、一生のお願いです。
私の大切な人を、愛する人をもうこれ以上、連れて行かないでください。
テーマ「夜明け前」
(夜明け前が一番暗い)
9/13/2023, 4:54:45 PM