Open App

「わたし、『美しい』って言葉が、大っっっ嫌いなの」

 午前6時。
 まだ夜の闇が続いている。
 キャンプに来た僕らは、湖畔のほとりにキャンピングカーを停めて、ベンチに座りコーヒー片手に語らっていた。

「へぇ、それはどうして?」

「だって、『美しい』があるなら、その対には必ず『醜い』があるじゃない。
 わたしは、どちらかというと『醜い』側の人間だったから……」

「そんなことないよ」

「……あなたは私の味方でいてくれるからそう言ってくれるだけ。……とにかく、そんな対比がどうしても生まれてしまう『美しい』って言葉が、どうしてもだめなの」

「そっか」

 空が、白みはじめた。

 湖畔の水平線から、朝日が顔を出さんとしている。
 水平線近くの空は燃えるような曙色に光って、その曙色を溶かすように、天に向かって空色とのグラデーションが広がっている。

「……わぁ」

 彼女は、その壮大な光景に見惚れていた。
 もちろん僕もそうだ。






『美しい』

1/16/2024, 3:16:48 PM