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ショートストーリー「あなたのもとへ」

フードバンクのボランティアを始めてから二ヶ月が過ぎた。
社会のために何かできることはないかと、ボランティアを探していて見つけたのが食料品の配達の仕事だ。
この不景気で食料品を買えない人が今まで以上に増え、配達のボランティアが足りない。

施設の前にはダンボールが整然と積み上げられ、仕分けされた寄付物がある。沢山の優しさから成るこの品を運ぶのは僕の誇りだ。

施設の中に入るとちょうど代表が電話を切っていたところだ。
とても険しそうな顔をしながら僕を見る。
「柳沢君、僕と一緒に来てください。急ぎです。」
詳しいことは何も言わずに代表は、食料品の入ったダンボールを僕の車に積んだ。

僕が車のエンジンをかけると代表は、行き先と事情を説明してくれた。
「先ほどの電話は、声の感じからするとかなり高齢の男性でした。ご飯をしばらく食べていないようでおそらくかなり憔悴しています。」

冬の寒さが僕の痛覚まで刺激する。僕の心まで痛み出してきた。
急がなければ。

十五分ほど車を走らせ、アパートに着いた。代表は僕の車を降りると食料品を持って走って行った。
僕も車を駐車場に停めると、急いで代表の後を追った。

電話主の部屋の前にたどり着くと代表はまだ玄関前に立ってチャイムを鳴らしていた。
どうやら、まだ出てくれないようだ。僕たちはチャイムを鳴らし続けた。

五分ほど経ち、代表が言った。
「警察に電話して開けてもらいましょう」
そう言い終え110番通報しようとしたそのとき、ガチャリと鍵が開く音がした。
だが玄関が開くことはなかった。

これはまずい。僕は急いでドアノブに手をかけ扉を開けた。
80代くらいの男性が両膝をついて中空を見つめていた。
僕たちの存在に気づくと、目に大粒の涙を浮かべていた。

電話主の男性が無事だったこと、電話してから僕たちが来るまでどれだけ辛かっただろうか感じ取った僕たちも涙を流した。

男性の家はガスが止められていた。だから、袋麺は持ってこなかった。
こういう時には缶詰がとても役に立つ。

男性は焼き鳥の缶詰をうまいうまいと涙を流しながら食べていた。
僕ができることはここまでだ。
後は代表が男性の生活状況の聞き取り必要な社会支援へつなげていく。

僕がこのボランティアを始めて二ヶ月。僕が想像していた以上に厳しい現実を強いられている人が沢山いることが分かった。
でも、その厳しい現実を何とかしようと立ち向かう人たちがいることを知った。

1/15/2025, 2:24:31 PM