こんな夢を見た。自転車に二人乗りしながら、すっかり桜が散った並木道を走る。
「桜散っちゃったね、もう葉桜ばっかり」
自転車を漕ぐ彼の背に話しかける。
「そうだね。でも今年はいつもより桜が長く見られたよ」
「そうだっけ?」
「うん。だって、今年はキミと桜を見た回数が去年よりも五回多かったからね」
「もしかして、数えてたの?」
「そうだよ」
「何それ」
笑いながら、彼の背を軽く叩く。彼は痛いよ、と軽口を叩き、ひたすら自転車を走らせた。
「桜って、咲いてから散るまでが全盛期みたいなものだよね」
「僕は、そうは思わないよ。桜が全て散っても、キミとこうやって葉桜の季節を楽しめるんだから」
彼は、葉桜が好きなのか。少し変わってるな。
「まだ、思い出してないんだね。そろそろ思い出してほしいから、少しアプローチ変えようかな」
彼は自転車を停めると、こちらに振り向く。
「僕の顔に見覚えはない?」
覗き込んできた彼の顔をまじまじと観察する。何だか、懐かしい気持ちがする。同時に目を逸らしたいような、それでも見ていたい衝動に駆られた。
「キミのおかげで、桜が全て散っても僕は消えずにすんだ。…これで思い出してくれた?」
そう言われ、脳裏に桜の舞い散るベンチが過った。そうだ。私には、とても仲のいい誰かがいつも一緒にいたのだ。もう少しで思い出せそうな気がする。喉まで出かかった彼の名前を呼ぼうと口を開けた。彼は腕時計を見ると、悲しそうな顔をした。
「ごめん、時間みたいだ」
彼がそう言うと、ざあっと並木道の葉桜がざわめいた。
「次会うときは、名前呼んでね」
目を開けていられないほどの突風が吹き、風が止むと彼はいなくなっていた。
4/18/2026, 8:10:07 AM