とある恋人たちの日常。

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 心身ともに疲れた時に、彼女のいる修理屋にバイクの修理をお願いしに行った。
 たまたま彼女がワンオペになっていて、俺一人が客だった。
 
「疲れたー!!!」
 
 俺は床にダイブしながら悲鳴をあげると、彼女はくすくす笑いながら、工具を持って修理をしてくれる。
 
 出会った頃の彼女は、やることなすこと全ての行動が不安になる動きをするから、心配で仕方がなかった。
 でも、仕事で先輩をしている姿は頼りがいがあって驚いた。
 
 その姿を見て感慨深くもなったし、ほんの少し心が温かくなった気がしたんだ。その時は、それがどういうものかは分かっていなかったけれど。
 
 
 そして―――――
 
「大丈夫ですか?」
 
 当たり前のように俺を心配する彼女。
 
「私に何かできること、ありますか?」
 
 手を差しのべてくれる彼女。
 
「疲れているんですよね!? クリームソーダ持っているので、用意しますね!」
 
 俺の好きなもので労りつつ、気遣ってくれる彼女。
 
 俺の周りには、そんな人は居なかったんだ。
 
 嫌いじゃないけれど、自分の気持ちだけを押し付けて、押し付けて、押し付けて。
 俺を振り回すだけ振り回す人達ばかりの中で、俺を気遣って……大切にしてくれる人。
 
 そんな彼女と交流して行くうちに、俺の心に火が灯っていたんだ。
 
 
 
「……好きだよ……」
 
 
 
 彼女の耳には届かない程の小さい声で、自然と言葉を紡いでいた。
 
 紡いだ言葉の意味に気がついて、俺の耳は一気に熱くなる。だから咄嗟に顔を腕で隠した。だって絶対に顔も赤くなってる。
 
「わあっ、顔が真っ赤!! 熱ですか!? 病院まで送りましょうか!?」
 
 そんな俺の様子を見た彼女は驚いて、俺にクリームソーダ手渡す。そしてお店を閉じる準備をし始める。
 
 ヤバい、心配された。
 
 そして救急隊員の俺としては、自分の病院に放り込まれるのも嫌だったし、こんな顔を先輩や隊長に見せたくない。
 
「し、心配しないで。大したことないから! 俺、医者だし大丈夫だよ!」
 
 手際よくお店の片付けをしていた彼女の後ろから、つい大きな声で叫んでしまった。
 
「ほんとう……ですか?」
 
 振り向いて眉を八の字にして不安そうな表情で俺を見上げる。その瞳の奥には心配という文字が見えた。
 
 嬉しい。
 
 心臓は確かに高鳴っている。それでも俺は彼女を安心させるように笑った。自分で驚くくらい自然に笑えたと思う。
 
「本当に大丈夫。ありがとう。でも、少し休ませて欲しいな。ついでに俺の話し相手になってよ」
「はい!!」
 
 元気よく返事をする彼女を見て、安心と同時に灯った心の火が、また強く熱くなった気がした。
 
 
 
おわり
 
 
 
百九、心の灯火

9/2/2024, 2:36:28 PM