悪役令嬢

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『どこ?』

ここは闇に浮かぶ舞台。
中央に佇むは、一人の執事。
彼の眼前には、扉が三つ並んでいる。

スポットライトが照らす壇上、執事の向かいに
立つは、奇抜なメイクを施した道化師。

「😃 👉🚪🚪🚪」
(訳:この三つの扉のどこかにあなたの
大切な人がいます。当てることができれば、
無事に再会できます。ただし——)

 道化師は、芝居がかった仕草でジェスチャーする。

「👋😭」
(訳:外したら二度と会えません)

 執事の心臓が跳ね上がった。
彼の主──誰よりも気高く、誰よりも気まぐれ。
突然消えた彼女を探し続け、そして今、
この奇妙なゲームの舞台に辿り着いた。

 選択肢は三つ。
この一手を誤れば、主は永遠に失われる。

 執事は中央の扉を指さした。

「真ん中を選択する」

道化師は満足げに頷くと、選ばれなかった
二つの扉のうち、一つに手をかけた。

「😳」
(訳:ここに君の大切な人はいません)

 開かれた扉の向こうは、空っぽだった。

「😊🫰」
(訳:さて、ここで選択のチャンスをあげましょう)

「🚪👈🤓👉🚪」
(訳:最初に選んだ扉のままにしますか?
それとも、もう一方に変えますか?)

 執事の頭の中で、冷たい声が囁く。
モンティ・ホール問題——最初に選んだものを
変えたほうが、正解の確率が上がる。

 執事は逡巡した。
直感を信じるか、論理を信じるか。

「……変える」

道化師は目を細め、扉の前に立つ。

「😒」
(訳:ファイナルアンサー?)

 執事が頷く。
そして、扉が開かれた——

 そこにいは誰もいなかった。

 黒い穴のような空間。
その奥から何かが蠢く気配を感じる。

「🤗♪」
(訳:ぶっぶー!残念でした♪)

 間違えた。
 たった一度の、取り返しのつかない選択。

「👋🥴」
(訳:ほなさいなら)

 次の瞬間、暗闇から影のような手が幾重にも
伸び、執事を深淵へと引きずり込もうとする。

──セバスチャン!
脳内に響いたのは、懐かしい声。

執事は瞬時に胸元からチューリップの
アップリケを取り出し、道化師へ投げつけた。
それは、かつて主が夜なべして作ってくれた
魔除けのお守りだった。

「幽霊縛りアップリケ。
幽霊よ、闇の世界に帰りなさい」

「😵‍💫⁉️」

なんということでしょう。
道化師の体と黒い影が、渦を巻きながら
アップリケの中に吸い込まれていくではないか。

こうして舞台には、
最初に選んだ扉だけが残された。

震える手で扉を開くと、そこには体を丸め、
すやすやと眠る主の姿があった。

「( ˘ω˘ ) スヤァ…」

呑気な寝顔に、執事は思わず苦笑する。
彼女が持たせてくれたお守りが、
こんなところで役にたつとは。

起こさぬよう、そっと主を姫抱きにすると、
その場を後にした。

静寂の中、スポットライトが
ゆっくりと消えていく。

──幕は、静かに降りた。

3/19/2025, 9:15:02 PM