【行かないでと、願ったのに】
夕焼けが街を染めていた。
ビルの隙間から差す光が、二人の影を長く伸ばす。
「お前、ほんとに行くんやな。」
目の前の親友は、荷物を肩にかけ、いつものように笑ってうなずいた。
「行ってくるわ。ちょっと遠くまでな。」
それがどれだけ遠いのか、なんてもう聞けなかった。
駅へ向かう足音が並ぶ。
ふざけて押し合いながらも、笑い声の裏には言葉にならない寂しさが混じっていた。
「お前がおらへんと、なんか落ち着かへんな。」
「たまには静かでええやろ。」
そう言って笑うその声に、喉の奥が詰まった。
改札の前で立ち止まる。
「じゃあな。また、飲もうや。」
軽く手を上げて歩き出す背中に、伸ばした指先が空を切る。
行かないで、と願った。
けれど声にはならなかった。
電車の音が遠ざかる。
残されたホームに、一人だけの笑い声が小さくこぼれる。
「ほんま、勝手なやつやな……」
そう呟きながら空を見上げる。
赤から藍へと変わる空の輪郭が、少しだけ滲んで揺れた。
どこまでも広がる空は、あいつのいた日々みたいにまぶしくて、少しだけあたたかかった。
11/3/2025, 2:24:19 PM