ゆかぽんたす

Open App

「久しぶり」
2年ぶりに再会した貴方は相変わらずだった。髪型も喋り方も、笑った時にすぐに手を叩く癖もあの時のまま。少しも2年の月日が経ったことを感じさせない。
「まさかうちの新たな取引先にお前が勤めてるなんてな」
「ね、私もびっくりした」
劇的な再会をしたのは私の会社のエレベーターホールの前だった。フロアガイドを眺めていた男性に、ご案内しましょうかと声を掛けた。その男性こそが、まさかの元彼である貴方だったなんて。

「ぜんぜん知らなかったよ。でもまぁ、俺ら別れた時がギリ大学生だったからお互いの就職先なんて知らないよな」
彼の言うとおりで、私達は大学の時に付き合い、そして別れた。4年になったばかりの春のことだった。その後はお互いどうなったかも今の今まで知らなかった。共通の友人がいたわけでもなかったし、何だかんだで忙しない日々が続いていたから。だから、まさかこんな形で再会するなんてびっくりした。
「元気にしてる?」
「うん。そっちは?」
「毎日営業まわりで大変だよ。怒られてばっか。心折れそう」
そう言う割には彼はどこか生き生きしている。きっと仕事が楽しいのかな。そんなふうに思った。何事にもポジティブで、一生懸命で。だから私は好きになった。この僅かな時間話しただけで、あの頃のことが鮮明に蘇る。そして今も未だ、彼のことをほんのり慕う自分がいることに気付いた。
「まぁ若いうちは色々経験しとけって先輩が言うからさ。当たって砕けろで頑張ってる」
「あはは、なんかそーゆうとこ貴方らしい」
「本当、それ自分でも思うわ。いやぁ、お前と話せて良かったよ。今度ちゃんとゆっくり話そうよ」
「いいね」
気取った返事をしてみせたけれど、内心は胸が高鳴っていた。と同時に確信してしまった。私はまだ、貴方が好きだということに。また会う約束をしてくれるということは、少なからず相手も気持ちがあるということだ。まさか私のことを、ずっと思っていてくれたのかな。変な期待をしたら駄目なのに自分に都合のいいように考えてしまう。駄目だ、思い上がるな。へらりと笑って相槌を打ちながら、一応は自分を牽制する。でもそれは正しかった。次の彼の言葉が私に冷や水を浴びせた。
「俺、来月結婚するんだ。だから会うのはそれ以降でいいかな?」
目尻を思いきり下げて、頭を掻きながら彼が言った。唐突すぎで、私は今どんな顔をしてるんだろう。目の前に笑った彼がいるけれど、同じように笑えてるんだろうか。
まるで私だけがここに取り残されているような感覚。きっと2年前から私は立ち止まっていたままだったのかもしれない。今日の今日まで彼の連絡先を消せないままでいたのがその証拠だ。自分が思うよりずっと、こんなに未練を感じていたなんて。
「お幸せに」
祝福の言葉をなんとか紡ぐ。彼はもう一度照れくさそうに笑った。その大好きだった笑顔は、私にはもう残酷にしか映らない。

私だけ、置いてけぼり。




7/18/2023, 1:37:00 PM