『君と見た景色』
空が淡い水色の日に、この関東でも桜が咲き始めたとニュースが流れる。
昨日までの冬の寒さはどこへやら、雪の溶けた水溜まりに桜の花びらが浮かぶ。
春休みの後半に差し掛かった3月の中頃。
僕は1人で地元の水族館に来た。
建物は綺麗だが所々に古さを感じる部分がある。決して広くはないが静かで、外の陽射しが水槽に反射して柔らかく館内を照し、ゆったりとした時間の流れるこの水族館が僕は好きだ。
君との初デートの場所もここだった。
君のお気に入りの大水槽もあの頃のまま、体長2m程のアカシュモクザメが優雅に泳いでる。
2匹が寄り添うように泳ぐ姿はまるで僕と君みたいだった。
「あの2匹みたいにずっと一緒にいられたらいいね」
そう言って笑う君がきらきらと眩しくて愛おしかった。
淡い陽の光に照らされたその瞳は輝いていて、幼い子供のように真っ直ぐに水槽を泳ぐ魚たちに向けられていた。
「綺麗だね」
そういう君の横顔を見つめて
「そうだね、とても綺麗だ」
僕はそう言った。
好きだった。
この空間が、この時間が、君の横顔が。
君がもうこのアカシュモクザメを見ることは無い。
ねぇ、この水族館、取り壊しが決まったよ。
君と見た景色はもう見られないみたいだ。
最後にもう一度だけ2人で来たかった。
君に見せてあげたかった。
2025.03.21
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3/21/2025, 2:15:07 PM