とある姉弟はスナック菓子パーティを開催していた。
バレンタインデーというお気持ち搾取イベントに辟易し、耐えられなくなったことからの急な開催だ。
姉の言い分はこうだ。義理チョコ、友チョコ、お世話になっているが故のチョコを用意しなければならないという点で負担が大きい。買ったものを渡すにしろ、チョコ菓子を作るにしろ、時間と労力と金銭を捧げなくてはならない。好意の差をつけるなら尚の事。そんなものやらなければいいという人もいるが、やらないという選択を取ったことで「そういう人」レッテルを貼られ、ケチを付けられることもある。社会人のお歳暮文化のようなものだ。穏やかな暮らしのために金銭を包むのを良しとする文化の亜種だ。
弟の言い分はこうだ。貰うにせよ貰わないにせよ、晒し者になる。好きの重さに程度があることを度外視した奴らのせいで、男女間のすれ違いや勘違いからの事故もおこる。貰ってしまえばお返しをしなければならず、そのお返しのセンス次第で人格否定までされかねない。気持ちのやり取りにしてはあまりにも重すぎるイベントだ。
炭酸入りのオレンジジュースで乾杯をし、日陰者同士で意見が合致したことを嬉しく思う。
我らの同士もまだどこかに隠れているはずだ。弟は言う。
彼ら彼女らを救い、共に手を取り、たった一日のために気分を暗く気を張り詰めて暮らさぬようにせねば。姉は言う。
二人の戦いの始まりは、ここからだった。
2045年、2月。
大手製菓のチョコレート工場が、「バレンタイン撲滅活動推進派」を名乗る組織に占拠された。彼等は人質をとり、企業に声明を出した。
人の気持ちを搾取するバレンタイン文化の推進を辞めよ、と。
2/15/2024, 12:59:06 AM