わをん

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『突然の君の訪問。』

小学生ぐらいのことだったか。学校行事で山登りをしていると登山道の傍らに小さく細いヘビを見つけた。口元からちょろちょろと舌を出してはいるがその場から動かないでいるのを、おなかが減っているからだと解釈した私はリュックからタッパーを取り出した。
「梨、食べる?うちの庭に今年初めてできたんだよ」
カットされた梨を爪の先でちぎってヘビの口元にやるとヘビはしばらくじっと見つめたあとに口へと運び、ムグムグと飲み込んだ。もっとかまってやりたかったが、先生や同級生に見つかればちょっかいを出されてしまう。梨の欠片をもう少しちぎって置いた私は後ろ髪引かれつつもその場をあとにした。
それから何年かが経って、今年も庭の梨の木に実がなり、食べ頃を迎えた。
「今年も目ざとく来たね」
あれ以来、梨の実がなる頃に現れるようになったヘビらしき生き物はふわりと浮き上がると梨の木の周りをぐるぐる回ってなにかを催促しているような動きを見せる。ひとつをもぎ取って目の前に差し出してみたけれどその生き物はさらになにかを訴えるような目でこちらを見つめた。
「相変わらず行儀がいいねぇ」
台所で梨の皮を剥き、芯を取って一口サイズにしたものをお皿に乗せて差し出すと、ヘビらしき生き物はそれでようやく梨を口にした。満足げに目を細めて梨の味を堪能するさまはなんだか神様のようだった。

8/29/2024, 4:20:49 AM