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#踊りませんか?

「うーん……」
放課後の図書館でひとり、頭を抱えていた。
「この辺だったと思うんだけど……」
この図書館には一度だけ、私がまだ小学校に入ったばかりの頃に来たことがある。
まだ本が得意では無くて、動物の出てくる絵本が大好きだった。
いくつか手にとってもどれも数ページ読み進めても途中で飽きてしまって、すぐに本棚に戻す、それを繰り返していた。
けれど一冊だけ最後まで読めた本があって、それが忘れられずにいた。
今日はその本を探しに来たのだ。
本棚の場所は覚えている。
外観も内装もそこまで変わっていなくて、本は増えたり減ったりしただろうけどすぐに見つかるかな……なんて思っていたのだけれど。
「……本棚、配置変わった?」
もう何年も経ってるし変わってて当たり前か……
あいにくタイトルは覚えていない。
内容はぼんやりと。
ちぐはぐで揉めてばかりの動物たちが、ある一言で笑顔になって、一緒に踊りだす。
今思い返せばそこまで面白いのかとも思うけど、オスのたぬきとメスのきつねが手を取り合って笑っているシーンが目に焼き付いていた。
絵本のありそうな棚をざっと見ていくけどそれっぽそうな本が無い。
あぁ、タイトルさえわかれば。
「『踊りませんか?』……?」
ふと目に入った本のタイトル。
踊り、という面では同じ。
本棚から取り出してピラピラとページをめくる。
──あ、これだ。
色鉛筆のようなザラザラしている優しいタッチのイラストが、記憶の中にあった絵本と一致する。
ずっと感じていたモヤモヤが晴れてすっきりしたと同時に、印象に残っていたシーンに少し疑問が浮かび上がる。
消極的で言葉数の少ないリスが仲裁していた最中にある言葉を言う。
『皆さんは、仲良くしたくないのですか? 一緒に楽しいことをしましょう。踊りませんか?』
ここまではいい。
次のページで大きく描かれているたぬきときつね。
きつねの目に涙が浮かんでいた。
満面の笑みで楽しく踊っていると思っていたから、涙なんてそぐわない。
楽しいだけじゃなかったのかな。
本当はみんな、仲良くしたくて、でもどうすればいいのかわからなくて、すれ違ってばかりだったのかもしれない。
ようやく仲良くなれて嬉しかったのかな。
あぁ、やっぱり絵本は奥が深い。
大好きだ。

10/4/2024, 11:49:16 AM