いろ

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幼馴染みが同じクラスの女子と付き合っていると噂になった。
あいつとは家が近所で、幼稚園の頃からずっと一緒だ。
物心ついた時から、俺の記憶にはいつもあいつがいるように思う。
これまで隠し事などされたことがなかったし、俺もあいつに隠し事はしたことが無い。
それが当たり前だと思っていた。

けど俺は何も聞いていなかった。
あいつに好きな子が出来たことも、その子と付き合う事になったことも。

「お前さ、彼女できたんだって?」

いつもと同じ帰り道、俺はあいつに問いかける。

「は?何それ」
「とぼけんなよ。もうかなり噂になってる。好きなんだろ?」
「彼女のこと?別に好きじゃないよ」
「付き合ってるんじゃないの?」
「まあ、仕方なくね。俺は別に好きじゃないのに、彼女が付き合ってって言うからさ」

そう言うあいつの顔が赤く染って綻んでいた。
ここまで来て頑なにシラを切ろうとする幼馴染みに腹が立つ。
お前がそういう態度を取るなら、俺だって強気で出てやる。

「じゃあ、俺がもらっていい?」

幼馴染みの目が見開いた。
何が好きじゃないだよ、嘘つきやがって。
好きじゃないのに、付き合うかよ。
苛立つ気持ちを押さえて、いつもと変わらない声音を意識して話す。

「俺、実は彼女の事好きなんだよね。お前が彼女の事好きじゃなくて仕方なく付き合ってるなら、彼女の幸せのためにも俺がもらうわ」

あいつの顔が、ゆっくり歪んでいく。
なぜだか分からないけど、清々した。

そこで俺ははっとする。

俺は一体何にこんなに苛立っているのだろう。
何でも話せる仲だと思っていた幼馴染みに隠し事をされていたことだろうか。
俺の好きな彼女が、知らない間にあいつと付き合っていたからだろうか。

違う。全部違う。
本当はわかっていた。
認めてしまいたくなかっただけだ。
出来れば、気付きたくなかった。
気付かないふりをして、これまで通り過ごしたかった。

だって俺は、あいつの彼女のことなんてこれっぽっちも好きじゃない。
好きじゃないのに。




2024.3.26
「好きじゃないのに」

3/26/2024, 1:00:26 PM