高木いずみ

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【誇らしさ】

「完璧な人間ってのは、つまらないよな。」

カフェの窓際でコーヒーをすすりながら、友人の大輔がそう呟いた。彼は僕の学生時代からの友人で、昔からどこか人生を達観しているようなところがあった。

「どういうことだよ?」僕は聞き返した。

「完璧な人間は、もう何も成長しないってことさ。欠けたピースがないパズルなんて、ただの完成品だろう?それをいじくっても、何も変わらない。」


その時、僕の頭に浮かんだのは、自分の職場の上司だった。彼はまさに"完璧な人間"の典型で、いつも時間通りに仕事をこなし、どんな問題も冷静に処理をする。上司としては申し分ないが、どこか人間味が薄かった。


「どうしてそんなことが言えるんだ?」僕は少し苛立ちを覚えながら、大輔に問いかけた。「自分を完璧にすることが悪いとは思えないけどな。」

大輔は苦笑した。
「まあ、そう思うのも無理はない。俺も昔はそうだった。完璧になろうとして、自分を追い詰めていた。でも、それで満足できなかった。完璧を目指すと、自分の欠点が嫌になる。でも、その欠点があるからこそ、人間は成長できるんだよ。」

大輔は窓の外を見ながら続けた。

「欠けたピースを見つけて、それを埋めるために努力する。それが人間の本当の成長なんだ。完璧なパズルは、もうそれ以上変わらないだろう?」

その夜、僕は大輔の言葉を反芻しながら、自分の仕事を振り返ってみた。確かに、僕はミスをするたびに落ち込んでいたが、それがきっかけで新しいやり方を模索したり、他人に助けを求めたりすることも増えた。完璧ではないからこそ、成長し続けていたのかもしれない。

翌日、僕はいつも通り会社に出勤し、デスクに向かった。何かが少し変わった気がした。完璧を目指すのではなく、自分の欠点を受け入れることで、少しだけ心が軽くなったように感じた。


「完璧な人は成長しない。」

大輔の言葉が再び頭をよぎる。

完璧でないからこそ、僕は成長できる。そのことに気づいた時、僕は初めて自分に誇らしさを感じた。

8/17/2024, 8:08:17 AM