『街の灯り』2023.07.08
街の灯りがなんとやら。そんな歌があったのを思い出す。
自分が生まれる前の歌だが、両親がよく口ずさんでいた。
ここは新宿・歌舞伎町。横浜ではない。
ギラギラとやや下品とも取れるネオンが輝き、水商売の女が媚びを売り、キャッチが客を引き、スネに傷を持つ者たちがウロウロしている。
昔からこの街にいるから見慣れてしまったそれは、残念ながら歌のように「とてもきれいね」とは思えない。
しかし、隣にいる彼はそうは思っていないようで、窓から歌舞伎町の街を興味深そうに眺めている。
「バリ綺麗っちゃ」
訛りをのせて彼はそう呟いた。普段はあまり方言を覗かせないが、ふとした時に出てしまうそれが実に微笑ましい。
地元も都市部に行けば栄えているが、これほどギラギラはしていないらしい。
田舎から、東京に来た時は驚いたという。
「見飽きたよ」
タバコを吸いながらそう言ってやると、彼は「そうですか?」と首を傾げる。
「この部屋から見る景色に勝るものはないですよ」
無邪気に彼は笑った。
街の灯りに照らされた彼は、なるほど確かにとてもきれいだと思った。
7/8/2023, 12:18:54 PM