沈溺 つろ (シズレ)

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お久しぶりです、沈溺つろです。
皆様、新生活はいかがお過ごしでしょうか。
本日は、約1ヶ月と2週間ぶりに物語を書きます。
それでは本編です。行ってらっしゃい。
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「え…!見て!四つ葉のクローバー!」

少し虫に食われている四つ葉のクローバーを持っている詩音(しおん)。
きらきらと光る花の指輪がとても綺麗で、少し見惚れてしまう。

「ねぇ…聞いてる?」
「えっ、あぁ、すごいね」

「花澄(かすみ)反応薄くない?」
「いや…指輪綺麗だなって…」
「そっちかい(笑)…この指輪いる?てか、私が付けるより花澄の方が似合ってるし」

詩音は指輪を外し、私に差し出してきた。
「いる?ってどういうこと?そんな高そうな指輪私もらえないよ(笑)」
「いいからいいから!」

そう言い、詩音は私の手に花の指輪を付けた。
「ほら、似合ってるじゃん!可愛いよ!」
「そうかなぁ…でもありがとう、大切にするね」
「うん!」

はじけるような笑顔で返事をする詩音を見たのは、その日が最後だった。
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10月16日。街中の花屋の前で紫苑の花を見たとき、この会話を思い出した。一滴の雫が私の頬を濡らした。

「明後日が詩音がいなくなってから1年か〜…早いなぁ…」

2022年、10月18日。部活帰りに1人で歩いていた詩音は、交通事故で亡くなった。飲酒をした運転手に轢かれてしまった。即死だった。

もう思い出したくないのに、紫苑の花を見ると詩音のことを思い出してしまう。

詩音は私が高校1年生の時に出会った大切な友達。
友達がいなくて、移動教室もずっと1人だった私に話しかけてくれた。

初めて話した時のことを、昨日のことのように覚えている。

お互いの名前が「花に関する名前だね」だなんて、毒にも薬にもならないような、そんなくだらないことを話したことも全部覚えてる。

「ありがとうございました、またお越しくださいませ」
涙を拭いた私は、花屋で紫苑の花を買った。

毎年このくらいの時期に紫苑の花を買う。
一緒にいるみたいな感覚になって少し落ち着くからだ。少し気味が悪いと思われそうだけど、それぐらい詩音は私にとって、すごく大切な友達だった。
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「1年前くらいの私、花屋の前でこんなこと思ってたなぁ…」

2023年、10月18日。私は今、学校の屋上にいる。
3時間目の数学IIの授業を抜け出して、こっそりとここへ来た。

セキュリティが超がばがばな自称進学校。
「鍵空いてたの普通にやばかったな…まぁでも、もうここにも来なくなるし、いいか」

左手の親指についている花の指輪を光らせながら、フェンスを攀じ登る。

「詩音がいなくなってから2年経ったよ。早いね〜…私、詩音が隣にいてくれた学校生活、楽しかったよ。ありがとうね、今会いに行くからね」

私はあの日と同じように涙を拭き、そう言った。
そして、いつも詩音がいた右を見た。

両手で顔を抑え、見えないようにしている詩音がそこにはいた。

「詩音…?詩音っ…!!」
すると、詩音はかすれた声で「花澄」と言った。

「待ってね、今行くから」と言う私に、「だめだよ、来ちゃだめ」と返す詩音。

「なんで、私詩音に会いたいよ、お願い」
泣きそうになっている声で、詩音の手を取った。

左目は潰れ、鼻は削れて骨が見えている。
血だらけになった頬と唇。

赤黒い血に染められた見苦しい見た目の詩音と、
私の指輪が太陽に照らされている。

「だって…花澄には生きててほしいから」
そんな言葉を言う詩音の右目からは涙が出ている。

肺が潰れているのか、声はかすれたまま。

「それでも、私は…そっちに行きたい」
「……そっか…じゃあ、待ってるね」

次、私が瞬きをしたとき、詩音の姿はなかった。
私は足を伸ばし、震える手でフェンスを押した。

自分の怖い顔が見えないように両手で押さえる、そういう詩音の優しさが、私はすごく好きだった。

胸ポケットに入っていた鮮やかな四つ葉のクローバーが、ポケットから出てきて、風に揺られひらひらと
舞っている。付けていた指輪は外れ、前髪は10月の
冷たい風で崩れた。

2023年、10月18日。午前10時56分。
コンクリートの地面には花の指輪が落ちていた。





テーマ「風に身をまかせ」
作品名「再会」

5/15/2026, 7:16:50 AM