『私だけ』2023.07.18
「お前にこれが何かわかるか?」
彼はテーブルに積まれたジュラルミンケースを差す。
分からないと首を振ると、彼は口の端を上げるようにして、嘲笑う。
「バカなお前に教えてやろう。これは先の戦争で、かの国から持ち込まれた神なる炎だ」
それが何を意味するのか、ようやく察する。昔に還ったこの国を、それを使うことで更に「綺麗」にしようというのだ。
だから、こうして自分や友だちのようなものが集まっている。『どこにでもいるありふれたもの』をもつ者たちだけが。
彼はジュラルミンケースの表面を優しく撫でる。
「これを見せたのは今はお前だけだ」
静かな声で彼は言って、こちらを向いた。
「神の前だ。跪きなさい」
言われるまま、片膝をつき頭を垂れる。不快ではない。彼が言うのなら、ソレは尊ぶべきモノなのだ。
頭を垂れたことよりも、彼が自分にだけソレを見せてくれた悦びが勝っている。
彼と巫女が目的を達成できるよう、護り支えることが出来るのは、自分だけなのだ。
7/18/2023, 12:32:59 PM