つぶて

Open App

冗談という瓦礫を積み上げながら生きてきた。
他愛のない会話、しょうもないジョーク。
俺のダチは最高で、
毎日ゲラゲラ笑い合ってふざけ倒していた。
真面目な話なんて、したことなかった。

動画配信を始めたのも冗談半分だった。
内輪ノリがウケるはずもなく、
全然上手くいなかったけど、
面白いと言ってくれる人がいた。
また観たいと言ってくれる人もいた。
いつしか俺はのめり込んでいた。
そのうち有名になっちまうぜ、困るなあ!
それは楽しみだなあ! ダチはゲラゲラ笑う。
俺もゲラゲラ笑った。

月日が経ち、俺たちは酒が飲めるようになった。
「お前、まだやってんの?」
久しぶりに再会したダチは指輪を嵌めていた。
俺は冗談混じりに答える。
「やってるぜー? 視聴者が可愛くって縛られてんの」
真っ赤な嘘。
縛られてるのは、俺の方だ。
上手くいかない。
上手くならない。
上手くなれない。
有名人なんて、これっぽっちも手が届かない。
崩れそうだった。
真夜中。たった1人の窓辺。
積み上げてきた何かを見ようとして、
でも、そこには瓦礫すら無いような気がして。
もう、何が面白いかもわからない。
そんな本音は、本当は、
腹の底から口元までいっぱいに詰まっていて、
吐き出せないままえづいている。
「その視聴者の1人、俺だぜー?」
「マジかよ、恥っず」
「古参アピってマウント取りたいからさぁ」
「うっわ。古参アピめんど」
「自慢したいに決まってんだろ? さっさとバズれ」
「なんでお前のために」
俺たちはまた、ゲラゲラ笑う。

真夜中。1人夜道。
ありがとな。
心の中で呟く。
ダチの前で言えなかったのは、
口にしてしまえば、
とめどなく本音が溢れて、
全部崩れてしまいそうだったから。

支えがある。見えていない支えがある。
大丈夫だ。

俺はまだ、舞える。

5/4/2023, 5:46:17 AM