・さよならは言わないで
二月初旬〜五月初旬 春の神
五月初旬〜八月初旬 夏の神
八月初旬〜十一月初旬 秋の神
十一月初旬〜二月初旬 冬の神
役割分担は、このとおり。
そして立冬の今日、私、冬の神は、秋の神から仕事を受け継ぐことになっている。
一年ぶりに会う秋の神は、困ったような笑みを浮かべていた。
理由はすぐにわかった。秋の神の隣には、もう一人、仏頂面の少年がいたのだから。夏の神くんだよ、と、秋の神が説明してくれる。
秋から冬への引き継ぎの日に、なんで夏の神が。とっくに任期は終わっているだろうに。
最近やけに地上が残暑だと騒がしいのはこいつのせいか。
「どうして夏の神がここにいるのか、説明してくれる?規約違反だってことは、わかってるんでしょうね?」
秋の神は穏やかだが優柔不断だ。夏の神に押し切られたんだろうと察しがつくが。
「まぁまぁ冬ちゃん、落ち着いて。夏くんもほら、黙ってないで」
何が冬ちゃんだ。秋の神に背中を押されて、夏の神が前に出てくる。
当然だけど、ほとんど話したことはない。とゆーか、全くない、と思う。
秋の神や春の神に聞くところによると、子供っぽくて怒りっぽくてバカっぽいとか。
ふうむ、あながち間違ってもなさそうだ。
「何の用?」
「……お前が好きだ」
……は?
「だから、お前が好きだ。俺と付きあってほしい」
ここは嫌だと、正直に言っていいものだろうか。
「夏くんねー、冬ちゃんに一目惚れしたんだって。ほら、今年の春、春ちゃんの代理で冬ちゃんが担当した日あったじゃない」
ややこしいが、こういうことだ。
その季節の担当の神が出られない日は、他の季節の神が代理を務めることが許されている。
今年の春、私は一日だけ、春の神の代理を務めた。
地上では季節外れの雪だと騒がれたが。それを、夏の神は見ていたということか。
「綺麗、だった。雪も、お前も。冷たくて、澄んでて」
そんなこと…カッと顔が熱くなる。いけない。熱は体に毒だ。
「友達、なら、いい」
パッと顔を上げた夏の神は、わかりやすく安堵の表情を浮かべた。
なんだか照れくさくて、私は言葉を紡ぐ。
「用は済んだでしょ。帰りなさいよ」
さよなら、は、なんとなく言いたくなくて。
「半年後に、また」
あのとき、きょとんとしていた彼は、もしかしたら気づかないだろうか。
その年の冬が、記録的な大雪となった理由に。
富士山頂、高く積もった固い雪の意味に。
夏までもつといいけど。
独り言は、冬空に消えた。
12/3/2023, 2:39:10 PM