虚書/Kyokaki

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【テーマ:三日月】

お久しぶりでございます。たまたま開いたらテーマが月関連ということでしたので書かせていただきますよ。
月と言えば、やはり「I love you」の和訳「月が綺麗ですね」でしょう。夏目漱石様でしたっけ。外国の真っ直ぐな言葉から日本人特有の奥ゆかさを表した素晴らしい訳ですよね。
これの返しは色々ありますが、僕が好きなのは「あなたの瞳に映った月をずっと見ていたいです」ですかね。どことなく漂うヤンデレのかほりが非常に好みなんですよ。解釈違いだと揶揄されるかもしれませんが、元より人の心は十人十色ということでそういう解釈もあるということでご容赦ください。





「月が綺麗だな。」
 夜の海。海の囁きが響くこの空間。月が目立つ暗闇の中。ついガラでもねぇことを言っちまった。告白のやつをそのまんま。それに気づいて顔に熱が集まる。
「ふふ、それは告白と捉えていいのかな?」
「そ、そんなんじゃねーし!」
 隣の家に住んでいたこいつ──葵──は上京してどっかの野郎と付き合ってたけど、そいつがクズで捨てられたらしい。そんで戻ってきた。おばさんはりょーよーとか言ってた。
「大体、家で休んどけよ。わざわざ俺を連れ出しやがって。」
「いいじゃないか。そもそも私が家で大人しくしてるタマじゃないのはよく知ってるだろう?」
「まあな。」
 ガキの頃はよく山で一緒に走り回ってた。いつも立入禁止のとこに入って怒られてたのはよく覚えてる。
「今日は三日月だね。君は好きかい?」
「は?好きも嫌いもねぇだろ。三日月だろうが満月だろうが同じ月だし。」
 海が声を上げた。それは苦しげな顔をしたこいつの代わりとでも言うように聞こえて、こっちまで悲しくなってくる。
「私は三日月は嫌いだな。あの頃の空虚な自分みたいで。」
「…そうかよ。」
 それ以外何も言えなかった。今までずっと遊んでただけの俺が何か言う資格なんてないと思ったから。そーぜつな体験の葵とは違うから。
「結局君もか。君も私を突き放すのか。」
 さっきとは違う、小さくて消えそうな声。それに驚いて咄嗟に葵の腕を掴む。
「何だい?」
 次に聞こえたのはいつもの声だ。頭が良くない俺でも分かる。今のはこいつの本音だってのが。
「何か、その…お前は、お前だろ。俺はお前が馬鹿やってんのは、まあ…そこそこ面白いから、やれよ。好きに。」
 精一杯の想いをこいつよりも下手な言葉で伝えると、吹き出したように笑いだした。とりあえずいつもと同じ笑顔にホッとする。
「君ってば本当に不器用だね!ほら、素直に片思いしてる私が心配だって言えないの〜?」
「ばっ、んなわけねぇだろ!!!」
 ニマニマと気持ち悪い笑いを浮かべながら俺を見る憎たらしいそいつの柔らかいほっぺを左右に伸ばす。
「ひょ、いはいいはい!!」
「ぷっ、ハハ、ブッサイクだなお前!」
 海の声に加えて、俺らが上げさせたものも響いていく。闇に掻き消えているかのように思えるが、葵の心に染み込んでいることを願う。
「そうだ!今度どっかの夜にコンビニ行かない?」
「はぁ?お前一番近ぇコンビニがどんくらいかかると思ってんだ。」
 ドが付くくらいの田舎のここでは車で一時間くらいらしい。そんな距離を歩くなんてのはバカがすることだ。俺でもやんねぇ。
「ふふ、実はバイクがあるんだよ。一緒に乗って一緒に行こう。それで駐車場でケーキを食べて──」
 満面の笑みで計画を語るこいつを見て、こっちまで笑顔になる。

ちからつきました

1/9/2024, 3:25:47 PM