300字小説
水神様のお引っ越し
村から人が消えていく。若い者は仕事を求め村を離れ、年寄りは家族に引き取られ去っていく。
最早、年に一度の祭祀も途絶えて久しく、村人の心に我はいない。
このまま、忘れられ消えていくのか……と覚悟を決めたとき、宮司の娘が我に言った。
『祀ろう心さえあるのなら、村でも街でも同じでございましょう。私が祀り続けます。共に街に来られませんか?』
「……なんてことがあって、おばあちゃんが御神体を連れて、この祭壇に祀ったって言うんだけどね……」
同級生が小さな水槽の上に祀られた祭壇を見上げる。
「……神様、いるのかな?」
「水神様らしいけどね」
水槽には虹色に光る鱗の魚がゆらゆらと泳いでいる。
ぴしゃん、魚が音を立てて跳ねた。
お題「街へ」
1/28/2024, 11:47:24 AM