白糸馨月

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お題『たとえ間違いだったとしても』

 刑務所の面会室に通される。無機質なコンクリートばりの一室で受刑者との間にガラスの仕切りがある。
 俺がパイプ椅子に座ると、ガラスの向こうの扉が開いて、兄が警察官に両脇を抱えられながら現れた。
 兄が椅子に座っても、うしろに警察官が控えている。見張りということなのだろう。

「兄さん」

 呼びかけるといつものように穏やかに笑う。そんな人間が人殺しをするとは到底思えない。俺達兄弟は父親から暴力を受けていて、社会人になって稼いだ金も皆、父の競馬やパチンコ代に消えた。
 あるとき、俺が父親に瓶で殴られかけた時、兄が父を同じように瓶で殴った。たしかに兄に助けられなければ、俺の命はなかっただろう。だけど

「こんなこと、俺は望んでない!」

 兄を目の前にして俺は涙が止まらなかった。兄はいつものように穏やかに笑いながら言った。

「たとえ俺がやったことが間違いだったとしても、お前を守れて良かった」

 その言葉を聞いて俺はうつむいてしばらく泣き続けた。

4/22/2024, 11:55:56 PM