『時間よ止まれ』
駅へと向かう道のりを指先だけを繋いで生活の灯りやマンションの通路の規則的な明かり、街灯の下を過ぎながらゆっくりと歩く。楽しかった記憶はあるのに何をしていたかというとなにをするでもなかった時間は君がいたから成り立っていた。また会えるに違いないのだけど、別れに向かうこの時間が名残惜しい。
駅が近づくにつれて列車が行き交う音も聞こえてくる。乗るはずだった列車はゆっくり歩いていたせいでずいぶんと前に駅を発っていた。
「時が止まればいいのにね」
ふたり以外の時が止まれば残るはきっと楽しい時間だけ。列車の時間も明日やってくる仕事の時間も気にせずにふたりだけの時が過ごせたらどれほどよいことだろう。改札を渡る前、列車の時間の迫る頃に想像の中にだけ存在する時間を分かち合ったふたりはじゃあねとまたねに想いの丈を乗せて手を振って別れた。
繋いでいた手のぬくもりは指先からすぐ逃げてしまう。時よ止まれと思いながら指先をそっと握り込んだ。
9/20/2024, 3:32:00 AM