"裏返し"
「そういえば…」
いつもの休憩スペースで自販機のコーヒーを啜っていると、何かを思い出したかの様な口振りで話を切り出した。「なんだ?」と聞き返す。
「ある時を境に急にあからさまに距離をとったり、会話中院内の看護師に声をかけられ応対した後は、ムス、とした表情をして「どうした?」と聞くと「別に?」と口を尖らせ拗ねた言い方で、表情を変えることなくそっぽを向いて、スタスタとどこかに行ったり…」
「うっ…」
それは、飛彩に恋心を抱き始めた頃の俺の行動だった。あの頃の事を思い出すと本当、自分の女々しさに嫌気がする。
「初めはよく分からなかった。が、今思えばあれは裏返しだったんだな」
「…。んだよ急に」
むず痒さにコーヒーを啜って聞く。本当何でそんな事今思い出すんだよ。
「その会話していたのがここだったな、と…。丁度今の様な位置に座っている時だったな、と急に思い出した。それだけだ」
「…、あっそ…」
話しは終わりかと思ってコップに口をつけ、再びコーヒーを啜る。
「今の貴方は、そんな頃とは嘘の様に俺と一緒に居たがったり、2人きりの時はくっ付いてきたり、本当に可愛い」
「っ…!?」
急に恥ずかしい事を言われ噎せて、ゲホゴホ、と咳き込む。
「大丈夫か?」
と、俺の顔を覗き込んでくる。
「っ…」
お前のせいだろうが。咳き込みながら、キッ、と睨んで目で答える。
「済まない」
「ぜってぇ、ゴホッ、思ってねぇだろ、常習犯が…」
咳き込みながら悪態をつくと、「思っている」と微笑みながら背中をさすってきた。収まって顔を上げて横を見ると飛彩の顔が目の前にあって、驚いて思わず、ガタッ、と立ち上がって素早く後ずさってしまう。
「…フフ」
「っ、んだよ」
軽く笑われ、キレ気味で聞くと
「…。照れ屋で恥ずかしがり屋なところはいつになっても変わらないな、と」
反論しようと思ったが、実際に付き合い始めてから今も変わらずなのでなにも言えず、ぐぬぬ、と唇をわなつかせる。飛彩が元の席に戻ったため俺も元いた席に座る。座ると、気持ちを落ち着かせるために再びコーヒーを啜った。
8/22/2023, 1:13:31 PM