『明日世界がなくなるとしたら、何を願おう』
「明日世界がなくなるんだよ!」と、壁越しに隣の人がはなしかけてきた。
それを聞いて私は小躍りした「ホントに!? やったぁ~! 長年願っていれば願いは叶うんだねえ。神様ありがとう!」
「ずっと願ってたの?」
「私が十歳くらいの時からだから、七十年かな」
「そっかぁ~。いつかは叶うもんだね」
「それで。どうやって世界がなくなるの?」
「太陽が落ちて来るんだよ」
「それはまた、派手な。太陽が? 地球が太陽に飲み込まれるとかじゃないの?」
「そうともいう。地球を主体に考えれば、太陽が地球の周りを回っているし、天動説も正しいから」
「そうなんだ~。じゃ、最後に何お願いする?」
「あなたが一人で死ぬんだよ。あなたを主体として考えれば、死んだら世界も終わるし、太陽も落ちて来るんだよ」
そうなんだ~。そういえば私、八十才だし。今日の夕日が落ちて、沈んだら、もう次の朝、日の出を見ることはないのかもしれない。
十歳くらいの時から、夜になって、寝てしまったら、すぐに次の日の朝が来てしまう。学校に行かなくてはならない。眠りたくなかった。
生きている時に、一度でも死を願わなかった人なんているのだろうか。人間が、もれなく叶う夢なのだから、いないのかもしれない。
5/6/2023, 12:09:23 PM