“街の明かり”
目線の少し下、ずっと遠くに街の明かりが瞬いている。まるで日中の太陽の光を海が反射してキラキラしている様に、夜空の星々の光が反射して見えているみたいだ。
七夕は昨日だったけれど、まだ夜空には天の川も流れていて織姫星も彦星も天の川のすぐ側にいる。七夕が終わると、刹那の逢瀬を終えた二つの星は夏の大三角として夜空を彩る様になる。二人の逢瀬を側で見ていた夏の大三角のもう一つであるデネブはどんな気持ちなんだろうか。ふと思いついたことのくだらなさに笑いが漏れた。一人で消化してしまうにはしょうもなさ過ぎて今大急ぎでこの場所へ向かっているだろう相手に急かすメッセージを送る。
相手が到着するのを待ちながら、さて先程のしょうもない質問をしたらどう反応するのだろうかと考える。
ロマンチストな一面もある彼女はもしかしたら意外とデネブの感情に寄り添った解答をしてくるかもしれない。純理系の彼の方は、星に感情なんてあるわけないだろうと白けた顔をするんだろうな。最後に二人してそもそも神話なんて人間が勝手に後から思いついた夢物語だろうと一蹴して終わりそうだ。
数分後、送ったメッセージに既読が付いたことを確認してから画面をオフにした。右上に時間だけが映し出された黒いロック画面にはどこからどうみても幸せそうな俺の顔が映し出されている。
デネブだってきっと、幸せなはずだ。
急かされたことへの文句を垂れ流しながらこちらへ向かってくる織姫星と、それをなんとか宥めようとあたふたしている彦星に軽く手を振りながら、俺はそう思った。
7/8/2024, 3:16:46 PM