今にも雨が降り出しそうな曇り空が朝から広がっている。最近は青空が広がる暑い日が多かったのに。天気は自由すぎる。晴れ晴れとしていると思えば、急に雨が降る。気分屋で自由で、俺にはないものを持っている。天気のように自由になれていたら、どんなに楽なのだろう。もうずっと何かに縛られるかのように生きてきた俺には羨ましく思う。
「くしゅんっ」
「風邪?ブランケット要る?」
「ありがとう。急に天気が変わるから身体がびっくりしちゃうよね」
一緒に出かける予定だったのに、天候は予定までも崩す。珍しく揃った休みの日だというのに、野外でのデートはお預けになった。昨日までは準備万端と意気込んでいた俺の勢いまでもをどこかへ連れて行った。
「また今度、行こうね」
「次、いつになるか分からないじゃん」
「拗ねないでよ、きっとすぐだよ」
「今日だって、久々に休みが揃ったのに」
「一緒にいれるだけで幸せなんだから。二人で映画でも観る?」
「…観る」
ひとつのブランケットを分け合い、ソファーに二人並んで座る。少しだけ寒かった身体に彼女のぬくもりを感じて、心までもをあたたかくさせる。さっきまで天気のせいで台無しになったデートのことは忘れられないけれど。
動画のサブスクリプションにログインして、あれやこれや観たい映画を話し合う。少し部屋を暗くして、再生ボタンを押せば、一気に映画の世界に入り込んでいく。
『Will you marry me?』
今日彼女に伝えたかったことだ。綺麗な星空の下で、用意しておいた指輪を差し出す。ベタだけど、それぐらいでいいんだとシュミレーションまでしていたんだ。
でも、その予行練習なんてどうでも良くなる。天気に左右される感情ではない。一緒に住み始めてからずっと考えていたことだ。
英字のエンドロールが流れる。不幸な人生から幸福へと変わっていくあたたかくも頑張ろうと思わせてくれる話はとても面白かった。
「面白かったね」
「うん」
「…どうかした?」
「本当は星空の下で言いたかったんだけど」
「うん?」
「天気じゃなくて、言いたいって思った時に言うべきだって気づいた。…ムードもなにもないけど言っていい?」
「…うん」
「俺と結婚してください」
天気の話なんてどうだっていいんだ。俺が話したいことはあなたとの未来の話。
5/31/2022, 10:57:58 AM