『胸が高鳴る』
今日も朝から忙しく動き回り、少し無理をして笑顔を作り、ぐったりと疲れながらもなんとか1日の仕事を終えた。
帰り道に寄ったドラッグストアで、日用品を補充して、明日の朝食のためにいつものパンを買う。
会計を終え、袋詰めのためにビニール袋を開こうとするが、なかなか開かない。手入れを疎かにしてカサついた自分の指先に、少しだけがっかりした。ふと見上げた先の新作コスメのポスターの中では、可愛らしいアイドルがキラキラと笑っている。
私は手早く袋詰めを済ませると、売り場に戻りハンドクリームのコーナーを探す。何十種類も並んだクリームを眺めていると、桜の香りの物が目に留まる。そういえばもう、3月も半ばを過ぎている。もうすぐ桜が咲く頃だ。
テスターを手に取り、ささくれた指先に塗る。ふわりと淡い香りが静かに立ち昇り、春の温度と空気が私を包んだ。
新しい季節の予感と、潤った指先の感触に、久し振りに胸が高鳴る。
ハンドクリームは、少し高価な気がした。だけど、どうしても欲しいと思い、私はそれを買って帰った。
今夜はゆっくりお風呂に浸かり、眠る前にこのハンドクリームを塗ろうと決めた。春に包まれて眠りたかったからだ。
忙しい日々の中で、その小さな胸の高鳴りは、忘れかけていた何かを取り戻させ、もう少しだけ自分に優しくしようと思わせてくれた。桜の香りは私の指先で、私の日々を小さく守ってくれる。
3/19/2026, 2:12:03 PM