風が吹き荒れている。
地面は遠い。
窓の淵に足をかけて、下を眺める。
眼下には、無数の窓とコンクリートの絶壁が、下へ下へと続いている。
枕木に引っ掛けた縄がふらふらと揺れる。
ここでこうすることを決めたのは、つい一週間前のことだ。
私は道を踏み外したのだった。
残っているのは幾らかの莫大な借金と、多少の犯罪歴。
もう戻れないところまで転げ落ちてしまったのだった。
あの子と一緒に。
巻き込むつもりはなかった。
ただ、私もあの子も、冴えない、大したことのない、灰色の人生から抜け出したかったのだ。
純粋すぎるあの子の、灰色の人生に色をつけたかっただけなのだ。
ただ、ただ、一発逆転したいと考えていただけなのだ。
その考えの甘さに気づいたのは、もう後戻りできないところまで来た時だった。
だから、私たちはこうするしかないのだ。
誰にも迷惑をかけないためには。
この碌でもない人生から逃げ切るためには。
向こうの窓が開いた。
窓の淵に、あの子が足をかけている。
枕木に結んだ縄が、ふらふらと揺れている。
「さあ行こう」
私は、あの子の目を見据えて言った。
風が轟々と吹いている。
風のせいで聞こえないかもしれないが、あの子には伝わるはずだ。
縄に手をかける。
さあ行こう。
風が轟々と吹き荒れている。
6/7/2025, 4:54:30 AM