カミハテ

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読書好きなまこと



「ここはこうなってこうなるからこうなるんだよー、
オッケー?じゃ、次ねー」

カリカリカリカリ。

クラスの数学苦手勢が必死に板書する音が聞こえる。

先生の言ってることがすぐ理解できないから、とりあえずノートに写して、後から質問するなりじっくり考えるなりしなければならないからだ。

かくいうまこと自身もその一人なのだが。




まことは高一だ。

今年の春入学したばかりのぴちぴちJ Kというやつである。

塾に恵まれ、親の頭の良さがそこそこ遺伝したおかげで県でトップの進学校に入学した。

周りはもちろん秀才ばかり。

中学の頃はワークを丸暗記して定期考査で高得点を取るだけで頭が良いと言われた。

それが中1からできる子はあまりいないからだろう。

そして中1の頃からその方法をして、高得点をとり、周りよりも頭が良いと思われた。

人は、周りと異なるものが個性となる。

中学の頃は周りに頭が良い子が少なかったから、「頭が良い」というのが1つの個性として成り立っていた。

だが、高校は違う。

同レベルの学力をもつ集団なのだ。

もう、「頭が良い」は個性にはならない。

そもそも中学の頃言われていた「頭が良い」は本当の意味での頭の良さではない。

ただ暗記するだけなら誰でもできる。

真の頭の良さとはなんだろう。

それはまだまことにはわからないが、、、。

ともかく、そうなってくると、まことの個性は何もない。

個性のなさにまことは結構悩んでいる。焦っている。

一体どうしたらいいんだろう。 

そして今、さらに大きな問題がまことにふりかかろうとしている。

中間考査である。

中学の頃は根性で一夜漬けでもどうにかなったが、高校ではそうはいかないことはわかっている。

なんせ県トップの進学校である。

中間考査がそんなに甘いわけがないだろう。



「キーンコーンカーンコーン、、、」

「きりーつ、れいっ」

「ありがとうございましたー」

スマホで音楽を聴いてるとき、ボタンが長押しされ、ボリュームが徐々に上がるような感じで、まことの耳に皆の話し声が入ってきた。

帰りの準備を済ませ、席に座ってぼーっとしていると、
後ろの方から声が聞こえてくる。

「ねー、物理どんくらい勉強してる?」

「一応昨日初めてワークやった、結構むずいねあれ」

「だよね、物理ってさーどうやって勉強」

もうワークしてんのか。はっやいなあ。

まことは聞き耳を立てるのを中断し、頬杖をつきつつ考える。

でも、もううかうかしてられない時期だよなあ。

最近休み時間も勉強してる人増えてきたし。

嫌だなあ。

この前受験が終わったばっかなのにまた勉強かよ。

そもそも毎日予習が大変すぎるから中間の勉強とかできねえよ。

予習に加えて課題もあるからマジでくそだわ。

「さ、ホームルーム始めるぞー」

「きりーつ、、、」





「ただいま、、、」

「おかえりー」

学校が終わり、家に帰るとまことはソファーに身を投げた。

母は最近ハマった韓国ドラマを見ていた。

「ねえ、お母さんが高校の頃って勉強どのくらい頑張ってた?」

まことはソファーに顔を埋めたまま聞いた。

「ぜんっぜん。定期考査の前日だけ、ワーク暗記しまくってたよ。一夜漬け。」

「へえ」

一夜漬けねえ。リスク高すぎるよなあ。中学と違って留年とかあるし。

あーでも勉強したくねえ。勉強っていうか暗記がめんどくせーんだよなあ。

「ああー、暗記めんどくせーーーー」
ソファーの上で仰向けになって呟く。

なんか昔の方が暗記力あったような気がするんだよな。

ま、そりゃそうか。

そりゃ今より昔の脳の方が容量の余裕あるに決まってらあ。

昔は絵本の文丸々暗記とかしてたもんなあ。

ふと、立ち上がり、自分の部屋の本棚を覗いてみる。

久しぶりに小さい頃大好きだった絵本を読んでみる。

亡くなってしまった子供がどうにか母に自分の無事を伝えて安心させようとする絵本だ。

子供の健気さと母親の愛情と親子の絆。

あたたかいストーリーで絵本とは言えど侮れない。

気づいたら泣いていた。

あー、自分、だいぶ弱ってんなあ。

思ってたより、新しい環境というのはストレスを与えるものらしい。

「こういうときは、、、」




「まことっいい加減本読むのやめてっ!」

母がなんか叫んでいるが、やっぱ、好きなことを思いっきりするっきゃないよな!

何時間没頭しただろう。

前ハマった全ての本を読み返している。

美少女が見事な推理で事件を颯爽と解決するミステリー小説、
少年とタイムトラベルによって過去から来た少女との儚いラブストーリー、
悩みの持つ中学生が集まって励まし合い、慰めあってそれぞれの夢を見つけて歩み出す友情物語、
きつねのキャラクターがバカなことばかりしてて爆笑できる児童書。。。

だんだんと元気が出てきた。

やはり、好きなことをすると元気が出る。

母の忠告もことごとく無視。

お風呂にも入らずにずうっと読み続けた。

ふとスマホで時間を確認すると、もう真夜中の一時だった。

と同時にクラスラインの通知に気付く。

「なあ、明日数学単元テストだよなあー?他クラスに聞いたけどめっちゃむずいのに90点合格らしいよ」

まことの顔は顔面蒼白になった。

一夜漬け決定である。

6/15/2024, 4:45:00 PM