かのこ

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『眠れないほど』2023.12.05


 親子ほど年の離れた男の、普段は一ミリもピクリともしないその表情が、柔らかく微笑を浮かべる様を思い出し、わけもなく胸が高鳴った。
 直接、自分となにか関わりがあるわけではない。たまにすれ違って、一言二言、会話をするぐらいの関係である。
 それでも彼はこちらを認識しているし、きちんと名前を呼んで大人のように扱ってくれる。どうにもならない隔てを感じさせないほどフランクだ。
 気難しいというわけではなく、ただ真面目なだけ。
 整髪料で固められた髪も、きっちり着込んでいる制服も、あの人の几帳面さをあらわしている。
 でも、二人でいるとそれが乱れる。一本だけ額にかかる枝垂れ毛に、緩められた襟元が、彼の余裕のなさをあらわしてる。
 それを思い出すたびに、眠れないほどの激情に駆られる。
 見悶えて見悶えて堪らなくなったときに、無理だと分かっていて彼に連絡をする。そのたびに彼は眉間に皺を寄せてたしなめてくるが、最終的に許してくれるのはきっと優しさから。
 そのような甘やかしを受けることはとても心地よいし、他の誰もこの一面を知らないのだと優越感に浸ることができる。
 僕にとって彼の人は、そういった意味で大切な人だ。

12/5/2023, 1:47:55 PM