わたしたちのいるこの世界は、どこかの星でドーナツと呼ばれているお菓子のような、円い形をしています。
世界の中心まで行くと、エーテルという半透明のカーテンがひらひら揺れていて、その向こうには真っ黒な宇宙が揺蕩っています。これと似たものを海と呼ぶ星もあるのだと学校の先生は言っていましたが、父の書斎にある図鑑では海は地面に埋まっていると書いてあったので、本当に似ているのだろうかとちょっぴり疑っています。このことは先生には秘密です。
わたしたちは放課後、ときどきこの中心部へやってきます。エーテルの隙間から星を投げ入れてあげると、宇宙との化学反応でぱっと強い光が放たれるからです。その光は空中で冷えて舞い上がり、彗と呼ばれる気体になってわたしたちの世界に降り注ぎます。彗がたっぷり満ちている間、わたしたちは彗のエネルギーを吸い込んで生きてゆくことができるのです。
星の原料となっているのは、わたしたちが流す涙です。
わたしたちは涙を零した時、涙の粒が地面に落っこちる前に大切に掬い上げ、硝子の瓶に封じ込めて集めます。いっぱいになったら銀色の蓋を閉めて工場へ持っていき、職人さんにお願いをします。職人さんたちは、涙の粒を優しく撫でるように磨き上げ、形を整えます。しばらく磨くと、涙は宝石のように輝きを増してゆき、やがて星になるのです。
わたしたちにとって涙は生きてゆくのに欠かせない大切な光です。だからわたしたちが涙を零した時は、星が溢れたよ、なんて言って笑い合います。
ほらまた、あの子の目から星が溢れたよ。
『星が溢れる』
3/15/2024, 2:32:42 PM