小絲さなこ

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「進みが遅い季節は別れが近づいていることを実感させない」


厚い雲が所々途切れ、その雲の隙間から太陽の光が街を照らしている。
だから、外に居ないと気が付かないのだ。
音もなく地面が濡れていることに。



「まだ紅葉見頃じゃないなんて」
この時期まだ暖かいインナーを着ていないなんて初めて、と彼女は呟いた。

「初雪もまだみたいね」
そう言う私も、いつもなら薄手のコートを羽織っている頃だ。

季節の進みが遅いと、勘違いしそうになってしまう。

それぞれ別の道へ進む、その日があと何日なのか。
あと何回、ふたりでこの住宅地を、このいつもの道を歩けるのか。


「じゃあ、おやすみー」
「うん、おやすみー」

まだ太陽が出ていても「おやすみ」と言って別れる。
私たちは何の疑問も抱いていなかったけど、東京では夕方別れるときに「おやすみ」なんて言わないのだと上京した兄が言っていた。
そして、都会ではお天気雨が珍しいということも。


あと何回、私たちはこの街ならではの風景を一緒に味わえるのだろう。

カレンダーは残り二枚。



────柔らかい雨

11/7/2024, 2:42:35 AM