『あじさい』
庭先に咲き始めたあじさいの花をひとしきり眺めた後にその葉をひとつふたつと摘んで台所へと持ち帰る。ボウルに入ったおひたしのごま和えを菜箸で小鉢へ移し替え、刻んだあじさいの葉を入れた。その間に姑が台所にやってきて早く飯を用意しろとだけ言って夫や舅の待つ部屋へと向かっていく。私がここに嫁いでから義母は炊事場に一切立っていない。味付けを教えてくれたこともないのに味の文句を言い、ご飯の用意が遅いと文句を言い、食べた後にもあれが嫌いだのこれは不味かっただのと文句を言った。ある日の食事の後片付けの最中にいつまでもうるさくするなと文句を言われてからはみなが食べている時に洗い物に取り掛かるしかなく、結果、私一人だけが同じ食卓にいないような事態になっていった。
用意した晩ごはんを3人分食卓に並べる。夫や義父が気にかけてくれていたのも最初だけだったから、あじさいの葉は3つすべてに入れた。義母が私に言わなくてもいいような文句をつけ、私が部屋を出ていってからいつものように食事が始まる。あじさいの毒性は未だ解明されていないらしいけれど、吐き気や失神、昏睡が起こるとされている。あとにした部屋から食器の落ちる音、割れる音、人のうめき声が聞こえてくる。けれど後片付けに忙しい私には相手をしている時間はなかった。
6/14/2024, 3:14:14 AM