『優しくしないで』
(男性同士の恋愛の匂わせがあります。苦手な方は逃げてくださいませ)
ムカつく。
なんて思ったらアカンと思うけど、やっぱりムカつく。
いやいや、仕事してんのに。
なに、イラッとしてんねん、俺。
今の状態は、絶対に俺が悪いって俺自身が一番わかってるし。
それでも眉間にシワが寄るのが止められへん。
さっきまでは、メッチャ機嫌が良かったのに、ホンマ嘘のように黒いオーラが禍々しく出てるのが自分でもわかる。
そう、さっきまでは。
LINEに届いたお前からの短い文。
『たまには一緒に飯くうて帰ろうや』
それだけで、単純な俺はずっとニマニマとだらしない表情になってたんや。
紆余曲折、色々あったけど、やっとお互いの気持ちを素直に伝えられて、晴れて絶賛同棲中の俺とあいつ。
同じ部の外商やけど、課は違う。
それでも顔を上げれば、何人かのデスク越しに目が合ったりして。
ソッコーLINEの返事もしたけど、しっかりアイコンタクトもしたりして。
先月、余裕の120%乗せで予算もクリアしたし、GWなんてお客様も旅行に行かれたり反対にご家族が帰ってこられたりで、外商が訪問出来る状況や無いから、開店休業。
コレはもう、さっさと経費の計算でもして帰ろう、帰ろう。
なんてウキウキしてたら、なんやアレ。
贔屓目やなく、俺の彼氏、御岳蓮は顔が良い。
身長もあるし、人当たりも『人たらし』と言われるぐらいに良い。
というか、これはうちの部員全員に言えることで、西は明石市、東はギリギリ大阪手前までのエリアを持つ外商部にあって、他のデパートは勿論同じデパートの大阪店までバッティングする俺達の部はエース部と言われている。
その中でもアイツの課は、日本全国にその名が轟き渡る選ばれた市、A市を担当。
俺の課もその隣の、これまた関西有数の上流層市、N市やったりするので、戦略として渋系、体育会系、ワンコ系、インテリ眼鏡系等々、外商先の奥様方に、その見目で頭脳で知識で喜んでいただけるメンズが集められている訳で。
この部に選ばれたら、会社公認のイケメンということらしい。
知らんけど。
その中で、アイツは元バスケ部の爽やかスポーツマン系。
今、映画でやってる『スラムダンク』の流川がずっと機嫌良く笑顔でいる感じ?
なんでメッチャ人気がある。
今も部も違う後輩のヤツに頼られたのか、後ろからPC.画面覗き込んで、2人で何か話ししてる。
顔、近すぎちゃうんか。
てか、なんでアイツを呼ぶねん。
同じ部のヤツに聞いたらええやんか。
ちょ、なんかようわからへんけど、その動き、マウス持つ手に手が重なってへんか?
なんでそんなに優しくすんねん!
思わず立ち上がった俺に気付いて、二人が顔を上げる。
バッチリ目が合ったら、アイツが邪気の無い顔で微笑んだ。
何か余裕のある表情でムカつく~!
俺は仕事の話しをしてるんやと思って必死で我慢してるのに。
「メッチャ、顔怖いで」
しばらくして終わったのか、アイツが笑いながら隣に座ってきた。
うるさいわ、誰のせいやと思ってんねん。
無視する俺に、更に近付いて俺のPC.を覗いてるふり。
俺の左隣に座って、右手は俺の椅子の肘掛けに、わざわざ左手を伸ばして俺の右側に置いてあるマウスを触る。
いや、近い近い。
そのまま、画面に視線をやったまま、ささやく声。
「なあ、顔上げずに聞けや。
さっき4部の佐々木に書類のフォロー頼まれててんけど、お前、俺らのほう立ち上がって見たやろ。
佐々木のヤツ、自分と目があったって言いよるねん。
アホぬかせ、言うねん。
お前は俺見とったいうねん」
はあ、なに言うとんねん、コイツ?
「竹中さん、メッチャ綺麗ですよね。クールビューティで、目が合っただけでドキドキしますって。
そやから、見んなって」
思わず顔を上げそうになった俺を制する声。
コイツは俺が嫉妬してるのわかってて、ちょっとからかうつもりであの後輩の側にいたらしいけど、反対にソイツが俺のこと言うてムカついたって。
何か意味わからん。
「そやから、アイツが何か言うても絶対に優しくすんなよ。
お前、自分が思てる以上にファン多いねんから」
はあ、その言葉、そのまま返すし。
(お前は俺だけ見といたらええねん)
なんて、お互い口にはよう出せへんことに気付いてへん俺達やった。
5/2/2023, 12:41:52 PM