玉響

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 これはあたしの持論だけどね、と前置きをおいてから、彼女はぽつりぽつりと話し始めた。
「最近思うの。眠る前に聴く曲が、その人の人生に一番優しい曲なんじゃないかって。」
「どういうこと?」
「寝る前って、1日の中で一番寂しいじゃない。寂しいときに聴く曲はきっと、優しい曲な気がするの。」
 なるほど、と思う。その人の人生に一番優しい曲、という言い方をする彼女が、僕は好きだった。
「君は、どんな曲を聴くの」
「あたしはね、色々聴くよ。そうだなぁ、最近のお気に入りは[まだ見ぬコーンウォールへの旅]とか、[アンディーブと眠って]とか、あとは[さよならの夏]とかかな。柔らかい曲が好きなの。」
「僕も、柔らかい曲が好きだな。」
 頭の中で考えながら、ぼんやりと返事をした。柔らかい曲、というのは、メロディだけの問題ではない。分かる人にしか分からない、どこか不確かな、柔らかい何か。言葉にできない何か。
「眠りにつく前に、言葉に溺れたい。」
 彼女はうっとりとそう言う。
僕はそれを眺めながら、言葉に溺れる彼女を考えて、なぜか恍惚とした気分になった。

11/2/2023, 3:56:01 PM