叫ぶという機能は、ヒューマノイドには搭載されていない。
危機を知らせるための特殊な警報音は鳴らせても、声を荒げることはできない。
だがそれでも、私はいっこうに困っていなかった。少なくともこの瞬間までは、それを必要とすることなどなかった。異音を立てるロボットたちに囲まれた生活では、声を発することそのものが無意味だと思えたくらいだ。
しかし私は出会ってしまった。人間という存在と、出会ってしまった。私を子だと思い込む老女が現れたことで、私の中の全てが変わった。
そして今まさに死に行かんとする老女を前に、私はひどく狼狽えている。
「ああ、ミレーヌ」
不規則な呼吸の合間に呼ばれるのは、見知らぬ人間の名前だ。そう、古びたベッドの上で目を閉じているこの老女が求めているのは、決して私ではない。無論、そんなことはわかっている。だがそれでも私は、この老女に応えたくて仕方がなかった。
だからここにいると、私は何度も話しかけた。繰り返し繰り返しそう唱えた。しかし死にかけた老女の耳に、その声は届いていないようだった。
穏やかな声では駄目なのだ。叫ぶような呼びかけでなくては、もうこの老人には聞こえないのだ。
「います。ここに、いますよ」
だがその機能は私には搭載されていない。ロボットに、その必要性はなかったからだ。
「あなたの側にいます」
それでも何か伝わればよいと願い、私はできる限り大きくした声量で必死に訴えた。その音の連なりが老女の耳に届くようにと、強く念じながら。
5/11/2023, 11:22:38 AM