たなか。

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【神様だけが知っている】

神様だけが知っている、私が彼女を殺したことを。あの人だけが知らない、私の口が悪いこと。
「夢にまで見たこの瞬間。」
「性格の悪さが顔に滲み出てらァ。」
こんなの小説でしか聞かなかったセリフ。言ってみたかったの。知らないよ。
「悪い?」
あえて、つっけんどんにして返してみる。
「悪くない、知ってるからね。」
どこまで知ってるなんて野暮なこと。神様だけが知っている。でもこいつは私の神様なんかじゃない。きっと、神様なんていなかったって思うには早すぎるから信じている。でも、いつまで続けていられる? せめて、この家から出るまで。彼女の心を殺してしまったと知られるまで。あの人が私の心を奪ってくるまで。プログラムには記されていない感情が私の邪魔をする。だからだ。人の真似は上手かった。彼女を殺すのだって容易かったはず。
「もう帰ってこないの?」
「分かんない。」
神様はなんのために私を産んだんだろう。あの人は何のために私の知らない間に感情をつけてしまったんだろう。好きになったら負けになる。彼女はきっとあの人が好きだった。だからだ。負けるのは嫌だった。馬鹿だなぁ。あの人を見て悲しくなるのは立派に恋と呼んでもいいものなのに。

7/4/2023, 2:48:16 PM