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 届かないのに


「席に着け、始めるぞ」

いつもと変わらない号令で始まった授業。
今日は先週行われたテストが返された。
先生が次々に名前を呼び、生徒たちへ答案用紙を手渡していく。受け取った答案を見て喜ぶもの、落胆するもの、教室は様々な反応でざわめいていた。

「××」

名前を呼ばれ、「はい」と自然に声が出る。周囲と同じように、当たり前のように。
教卓の前に立ち、先生から答案用紙を受け取る。

「お前はいつも代わり映えしないな。手を抜いているのか?」
「まさか。手を抜いてこの点数なら苦労しないですよ。これが限界ってだけです」

答案用紙に書かれた見慣れた数字。多少の上下はあっても、結局はいつもと変わらない。
可もなく不可もなく、そんな言葉がよく似合う点数だった。
わざわざ上を目指したいとは思わない。
そこそこ出来ればそれでいいし、目立つのも得意じゃない。
褒められたいと思ったことはある。
そのために頑張ったこともあった。
けれど、褒められるだけじゃ満たされないことを、もう知ってしまった。
それなら最初からそこそこでいい。
余計な望みを抱かずに済むように、そう自分に言い聞かせる。
そうすれば、きっと傷つかずに済むから。


「どうした、××。考えごとか?」

席に戻り、ぼんやりと答案用紙を眺めていると、隣に座っていたVが身を乗り出してきた。

「…いや、ちょっとぼーっとしてた」

そう言いながら、答案用紙をそっとノートと教科書の間に挟む。
Vはその手の動きをちらりと見やり、「ふむ」と短く声を漏らすと、そのまま視線を顔へと上げた。
見透かすようなその視線が少しだけ気まずい。
けれどVはすぐに視線を逸らし、どこか意味ありげに教壇へと目をやる。

「少しくらい、欲しがってもいいと思うけど」

それが何を意味するのか、説明はなかった。
けれど、問うまでもなくわかってしまう。
見透かされていたことに動揺はなかった。ただ、どこまで知られているのだろうかと一瞬思い、けれど問い返すこともなく、××はただ小さく笑って目を伏せた。


- to be continued -

6/18/2025, 8:28:52 AM